この号が出るころ、はやぶさ2は宇宙を飛んでいるだろうか。
 真山仁の『売国』は、宇宙開発と政治家の汚職をめぐる長篇小説である。
 主人公が二人いる。検察官の冨永真一と、宇宙開発の研究者(の卵)、八反田遙。それぞれの物語が交互に語られる。
 キャラクターが魅力的だ。冨永は徹底して証拠を重視し、法律の厳格な適用をする硬派な検事。コツコツと物証を積み上げ、上司の意向などより法律に忠実であろうとする。実家が京都の老舗和菓子屋で、商家のしきたりの話も興味深い。遙は元レスリング選手。宇宙開発の研究者だった父の遺志を継ぐべく大学院に進む。ガッツとファイトはあるけれど、ときにそれが空回りするドジっ娘でもある。
 冨永は特捜部に配属され、有力政治家の疑獄事件を担当する。ところが学生時代からの親友で、文部科学省に勤める近藤左門が、謎の伝言を残して失踪する。
 一方の遙は、研究所の指導教官のもとで、日本の宇宙開発の現状について学び、日米関係の複雑さなどを目の当たりにする。
 小説の途中までは接点のないまま二つの話が進んでいく。ところが後半、二本の線が交わっていく。キーワードは「売国」。
「売国」というと、最近は韓国や中国との友好を求める人に、ネトウヨ方面から投げつけられることが多い。しかし、本書が暗示する「売国」は、そんなチンケなものではない。日本という国家のあり方の、戦後約七十年にわたる恥部が「売国」だ。
 最後、数十ページの展開が圧巻だ。冨永と老政治家の対話で明らかにされる戦後史の闇。孫崎享や白井聡らの著作を想起する読者もいるだろう。最後の最後は、まるでジョン・ル・カレかグレアム・グリーンか。
 本書を閉じたあとで考えた。この小説のほんとうの悪党は誰なのだろう。国家とはなにか、主権とはなにか。空を見上げて、柄にもなく思う。

週刊朝日 2014年12月12日号