本年冒頭、NHK新会長と安倍政権との癒着が国内で波紋を呼んだ。政府から独立しているはずの公共放送が逆方向に向かっている──本書は東京新聞・中日新聞で論説委員などを務めた元新聞記者による、危機感にもとづいたジャーナリズム論だ。
 メディアの権力服従を生み出す要因にあげられるのは「客観報道」だ。報道は客観性にもとづくと聞いて違和感を持つ人は少ないだろう。しかし、それは主観を削ぎ落とし「ありのままの事実」を垂れ流すことではない。権力者の意思をそのまま伝えることは、暗黙の追随だ。安易な「客観報道主義」が日本型ジャーナリズムを衰退させたと著者は手厳しく批判する。「客観報道」とは本来事実の意味や予想される影響など、公平性や多面性に支えられる。その原点は取材者自身の疑問や驚き、すなわち「主観」である。つまり「客観報道は主観から始まる」のだ。
 あとがきでは世間の安易なマスコミ批判にも警鐘が鳴らされる。真の狙いは本書の読み手自身が主体的にジャーナリズムを再考することにある。

週刊朝日 2014年9月26日号