<今日は俺たちの職場“1F”に皆様をご案内しよう><1Fは「いちえふ」と読む><現場の人間 地元住民 皆がそう呼ぶ 1Fをフクイチなんて言う奴はまずここにはいない>。竜田一人『いちえふ』の副題は「福島第一原子力発電所労働記」。事故後の福島第一原発で働いた経験を描いて講談社MANGA OPEN大賞を受賞。新人としては異例の15万部を刷ったという、いま話題のマンガである。
 絵で描かれる1F敷地内のようすや作業前後のプロセス、夏の暑さなどはさすがにリアルで説得力大。が、それ以上に驚かされるのは、多重下請け構造の最底辺に位置する業者の労務管理のひどさである。
 ハローワーク経由で右往左往したあげく、作者がようやく見つけた職場は6次下請け以下の黒森建設(仮名)。日給2万円というフレコミで郡山まで来たものの、日給8000円から寮費プラス食費の1700円を差し引かれ、寮は6畳間に2段ベッド3台という狭さ。しかも彼らは現場に入るまで1カ月ほどの待機期間があったため、いきなり給料の前借りという借金を抱えることになる。<いやまったくブラック企業なんてもんじゃなかったっスよね>。
 だが、その一方、放射線問題に関しては妙に楽観的なのがこのマンガの特徴なのだ。<安全面についての不安は/無かったと言えば嘘になるが/今回の事故について放射線に/ついて自分なりに調べてみれば/一部のマスコミや「市民団体」が/騒ぐ程のものではないと/分かったし>、1Fから出た死亡者に関しても<死因は心筋梗塞/勿論被曝との関連はない>と書く作者。
<メディアの報じる/「フクシマの真実」なんて/そんな話ばっかりで/俺たちは正直うんざりだ>。それが現場のリアリズムだろうとは理解しつつ<「悪い話」ばかりが/偏って報道されがちな現状>に抗してこれが描かれたのなら、結果的には国と東電の思うツボ。告発の意識がないのが長所でも欠点でもある。

週刊朝日 2014年6月6日号