首相がああだと、言論界や出版界もこうなるのか。歴史認識のおかしい方が最近続出だけれども、この方の歴史観も相当なものである。
 かつての日本は<「日本のことが好き」とはっきり言いにくい空気に包まれていた>が、<私たちはいま、堂々と「日本が好き」と言えるようになった>。それが竹田恒泰『日本人はいつ日本が好きになったのか』の主張である。しかも<「日本が好き」と言えるようになったのは、東日本大震災が最大の要因だった>。
 震災がよかったといわんばかりの不遜ないいぐさ。が、いいたいことはわかります。日本人は自虐史観に染まっていたといいたいんでしょ。では、そのような史観に日本人が染まったのはいつだったか。
 著者は<日本人を精神的に骨抜きにする>ことを目的としたGHQの占領政策と、それを引き継いだ日教組の活動のせいだという。戦後一貫して日本人は日本嫌いだったとおっしゃりたいようだが、だいいち日本人が先の戦争における加害者性に気づいたのはせいぜいベトナム反戦運動後の70年代以降のことである。
 ほかにもおかしな言説が満載。教科書には<美しい天皇と皇族の姿>が紹介されていない(それは単なる趣味の問題)。日本には<為政者の権力闘争はあっても、住民が虐殺され、また玉砕するようなこともな>かった(じゃあ長島一向一揆や島原の乱は何なのだ)。安倍晋三の立ち位置こそが「中道」で、それを「右傾」と呼ぶのは<世の中全体が「左傾化」しているため>である(ではなぜ自民党が勝ち続けてきたのか)。
 きわめつきはこれ。日本は国民主権の国というのは間違いで<天皇と国民が一体となった「君民一体」こそが、わが国の主権者の姿である>だって。いつの時代の人?
 著者は「明治天皇の玄孫」で、最近は歌手の華原朋美さんがこの方をふったことでも話題になった。華原さんは賢明な選択をしたと思う。こんな差別的な本を書く人は、ねえ。

週刊朝日 2014年4月18日号