北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表
北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

 真面目な人が損をする社会。

 運転手さんのその言葉が耳に残っている。

 先週、米倉涼子主演ドラマ「新聞記者/The Journalist」の配信がNetflixで始まった。森友学園問題をベースにしたフィクションという体ではあるが、「関係していたら総理大臣辞めます」などという安倍晋三元首相の当時の発言はそのままドラマで使われ、亡くなった赤木俊夫さんが文書改竄を強いられ苦悩の上自死した状況、夫の最期を目にした妻の雅子さんの絶望や、その後の闘いはほぼ事実ベースで描かれている。ユースケ・サンタマリア演じる広告代理店の役員で内閣官房参与の男性は架空の存在だろうが、彼が東京五輪の誘致に深く関わり、「汚染水はアンダーコントロール(制御)されている」という首相発言について抗議した人物にパワハラをして声を奪っていく姿なども描かれている。「政治に必要なのはパフォーマンス力」と言ってはばからない「現政権」を支える人々が、真面目に自分の仕事に向き合う役人や新聞記者、就活中の大学生たちの人生を大きく壊していくドラマは、この数年間で私たちが体験してきた現実そのものである。

 真面目な人が損をする。要領よく立ち回る人の不正義が力を持ち、真面目に生きようとする人々の人生が虐げられる。そのような社会で私たちは諦めることを強いられてきているのかもしれない。それでも諦めない人は、必死に生きようとする。ドラマは自死した役人の妻が国を相手に裁判を起こすところで終わる。その結果は、国の認諾という、あまりにも残酷で不誠実なものであったことをリアルに生きる私たちは知っている。でも、終わらせ方は、本当は選べたはずなのではないか。私たちは諦めるべきではないのではないか。もう、これ以上真面目な人が損をしないために。そんな空気を野放しにしないために。

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