EIRL aneurysmは、脳動脈瘤が疑われる箇所が黄色くマーキングされる。解析は通常5分以内に完了する 撮影/掛祥葉子(写真部)
EIRL aneurysmは、脳動脈瘤が疑われる箇所が黄色くマーキングされる。解析は通常5分以内に完了する 撮影/掛祥葉子(写真部)

 AI(人工知能)がブームになって久しい。一時は「人間の仕事を奪われる」など不安を煽る未来予想もされてきた。そのようななか、ある医師は「AIの補助がないと、診断が不安になりましたね」と漏らす。医療はもう「人間だけ」の時代に後戻りできないだろう。人間の想像を超えるスピードで情報を処理するAI。好評発売中の週刊朝日ムック「新『名医』の最新治療2020」から、その最前線の特集をお届けする。

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「AIは、ときに人間の医師と同等、あるいはそれ以上のパフォーマンスを発揮する可能性があります」

 医療AIに詳しい東京大学大学院医学系研究科特任研究員・「The Medical AI Times」チーフエディターの岡本将輝氏に特集のテーマを投げかけると、まずこの答えが返ってきた。

 近年のAIの急速な進化は、2010年に起きたディープラーニング(深層学習)の高度発達に端を発する。「第3世代AI」の始まりと言祝がれた、業界のターニングポイントだ。これを機に医療用画像を解析するAIの開発に取り組む企業が急増。AI関連企業に関する情報サービス会社・CB Insightsによれば、医療AIスタートアップへの投資額は18年の27億ドルから、19年の40億ドルに増加した。

「19年のAI投資全体が266億ドルであることから、ヘルスケア領域はAI投資を主導していると言えるでしょう」(岡本氏)

■医師が気づけなかった「兆候」、ついに発見

 第3世代AIの根幹となるディープラーニングは、画像認識・解析の技術を飛躍的に向上させた。日本でもすでに画像解析AIを開発し、医薬品医療機器法(薬機法)の認可が下りた企業がある。

 19年には、メイヨークリニック(アメリカ)が業界を沸き立たせる論文を発表した。平常時の心電図から、潜在的な心房細動(不整脈の一種)を識別するAIの研究だ。心房細動は場合によっては脳梗塞などを引き起こす疾患だが、平常時には心電図に変化が見られず、早期発見が困難だった。

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日本は臨床活用に「高い壁」