また、2017年10月には、スイッチバックで有名なえちごトキめき鉄道二本木駅(新潟県上越市)に、撮影や見学ができるスペースが設置されました。約1メートル先を電車が走るため、迫力満点です。

 このような動きを受け、別の鉄道会社も、「うちのホームや駅も安全に撮れる場所にしよう」と整備してくれるようになれば最高ですね。

■悪質な撮り鉄は車を使うことが多い

 私は両親がともに国鉄職員で、昭和鉄道高校に進学し、国鉄職員を目指していました。卒業するころ、採用が少なかったため私は鉄道業界に就職できなかったのですが、同級生の多くは今もJRや私鉄で活躍。同窓会で集まると、マナーのなっていない「撮り鉄」を嫌っている様子がうかがえます。

 たとえば乗務員に向かってストロボ撮影をする人がいますが、安全運行のために絶対にしてはならないこと。このことすら知らない人は、鉄道ファンでもなんでもありません。知人と撮影をしていたときにストロボをたいたため、注意しました。ところが、「このカメラ敏感なんだよ!」と言い訳されたのです(笑)。

 自分が使っているカメラのストロボの止め方もわからないような人に、いい鉄道写真が撮れるわけがありません。

 危険な行為といえば、小型ビデオカメラを線路の真ん中に埋めようとしていた人を注意したことがあります。「ななつ星in九州」が通過する場所で、下から迫力のある動画を撮りたかったようです。しかし、通過時の風圧でカメラが跳ね上がり、列車にぶつかったら大惨事です。その人は舌打ちしながら別の場所へと移動していきました。

 私が鉄道写真を撮り続けてきて思うのは、悪質なことをするのはだいたい車で来る人ということ。大きな脚立や大量の機材は車でなければ運べません。また、いい写真を撮るために木を切る人がいますが、ノコギリ持参で鉄道に乗る人はいません。

 なぜ車を使うかというと、効率がいいから。私も車で移動することがありますが、撮影地を効率よく回れるため、必然的に鉄道に乗らなくなります。車の「撮り鉄」は鉄道にお金を落とさないのです。

 鉄道好きな「撮り鉄」なら、鉄道に乗るのも楽しめるはず。撮影前に鉄道に乗れば、撮影ポイントの下見もできるというメリットもあります。

 大きな撮影機材を持ち込み、場所取りを長時間するぐらいならと、私は機材を小型・軽量化し、フットワークを軽くすることを選びました。私の占有面積は足の大きさだけ。木村伊兵衛のように軽やかに撮り、自分だけの撮影スポットを探し歩くのが楽しいんです。三脚を使うのもやめたらいいんです。多少ブレていても、それも味になります。

 定番の撮影スポットで撮られた写真を見ても、どれもつまらなくて、ただ列車が写っているだけ。もっと自分にしか撮れない鉄道写真を追求したほうがいいと思うんです。

◯櫻井寛(さくらい・かん)
1954年長野県生まれ。世界93カ国の鉄道を撮影する鉄道写真の第一人者。「マツコの知らない世界」(TBS系)などテレビ出演、著書は多数。本誌人気連載「ぞっこん鉄道 麗しき名列車」でもおなじみ。鉄道員に憧れて昭和鉄道高校に入学したという、写真家としては一風変わった経歴を持つ。

(文/吉川明子)

アサヒカメラ特別編集『写真好きのための法律&マナー』から抜粋