会見できないでいる本人たちに対し、マスコミからの強い要望が続き、実際に、記者会見を開催したのが、帰国の12日後。比較的体調の落ち着いていた今井さんと郡山さん、そして弁護士による会見となった。集まったメディアの数はもう忘れてしまったが、150人以上はいたように思う。今となっては弁護士が代理人として当事者に代わって記者会見を主導することも珍しくないが、当時は弁護士が取材や会見対応をすることについてのメディア側からの反発も強くあり、「なぜ弁護士がいるんだ」との反応もあった。続いて受けたテレビ出演でも、本人に向けて、「謝罪の言葉は?」と質問がむけられた。

 彼らの自宅には大量のハガキ・手紙が届いていた。「バカ」「死ね」「自作自演」「帰ってこなければよかったのに」という非難の手紙はことごとく匿名で、他方、「おかえりなさい」「ありがとう」という応援の手紙は皆、実名が記載されていた。

 アメリカのパウエル国務長官(当時)の「イラクの人々のために、危険を冒して現地入りをする市民がいることを、日本は誇りに思うべきだ」との発言は、大きな支えとなった。

 今井さんなどは、帰国後、知らない人に後ろから突然殴られたこともあるという。3人は、イラクでの拘束状態よりも、帰国後の日本のバッシングの方がつらいとすら口にしていた。

◆安田さんの「責任」

「可能な限りの説明をする責任があると思います。」という安田さん。しかし、まずはとことんまで療養することである。今後、安田さんは記者会見の開催などをしていくのかもしれない。しかし、急ぐ必要はない。

 仮にその「説明」責任が安田さんにあるとすれば、メディアを通じてこのニュースを見ている単なる傍観者にすぎない私たちに対してではない。

 それは、シリアで出会った人たち、シリアで安田さんに声を届けてほしいと言ってカメラを向けることを許してくれた人たちに対してであろう。また、拘束されている間の状況を知らせることでシリアの現状を世界に示し、以後何人ものシリア人の命を救うための「知った者の責任」であろう。さらに、拘束される過程で安田さんに安全確保についての「ミス」があったのであれば、これから後に続いて紛争取材に入る人たちへの教訓のために、それについての説明はしたほうがよいだろう。

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