「樋田容疑者は嫌がるそぶりもなく、普通でしたよ。しかし、妻がしばらくアップで撮っていたら、両手を目がしら付近にやり、ムッとした感じだった。それで妻は自転車を撮った。今にして思えば、アップでとられたりすると素性がバレると思ったんじゃろかな」と高橋さん。

 樋田容疑者の自転車には、四国巡礼の「お遍路さん」が使う笠も積まれていたので、高橋さんはそのことについても尋ねたという。

「お遍路さんもまわっています。お遍路さんが利用するお寺などに泊めて頂けるのでありがたいです」と樋田容疑者は説明したという。合計15分ほど話した高橋さんは、「大変だけど、頑張ってね」と激励して、別れたという。

 しばらく、高橋さんの記憶から「道の駅で会った好青年」の記憶は消えていた。

 それが9月29日、山口県周南市で樋田容疑者が逮捕された。そこで多くの報道される写真を見ていると、「どっかでこの子と会うとるはずじゃ」と思い出した。

 ビデオカメラをチェックすると、樋田容疑者そっくりの人物が写っていた。

 そこで、地元の周南署に電話をしたというのだ。

「日焼けした顔もじゃが、着ていたサイクリストの服などもまったく同じ。間違いないわと思った」と高橋さん。樋田容疑者が逮捕された周南市の道の駅「ソレーネ周南」はなんと高橋さんの自宅から10分程という至近距離だそうだ。

「周南市の道の駅は本当に近くなんですよ。うちも時々、行きます。そんなところで逮捕じゃなんて、驚きですよ。8月30日午前11時くらいに私が彼と会い、その日深夜11時に高知県須崎市の道の駅『かわうその里すさき』で高知県警のお巡りさんが樋田容疑者に職務質問したそうだ。私が樋田容疑者をみた田野町の道の駅『田野駅屋』から100kmはありますよ。それを10時間ほどで自転車で走るんだから、すごいよね。真っ黒に日焼けして、強い信念を感じましたよ。あの子ならやるなと。けど、まさか指名手配の悪党だとは今も信じがたいです」(高橋さん)

 樋田容疑者は今も黙秘しているという。(今西憲之)

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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