全国の看護師の有効求人倍率。「平成25年度都道府県別求人数等の実績」「平成25年看護関係統計資料集」より。東大医科研 森田知宏、児玉有子(出典:医療ガバナンス研究所調べ)
全国の看護師の有効求人倍率。「平成25年度都道府県別求人数等の実績」「平成25年看護関係統計資料集」より。東大医科研 森田知宏、児玉有子(出典:医療ガバナンス研究所調べ)

 東京を中心に首都圏には多くの医学部があるにもかかわらず、医師不足が続いている。だが、現役の医師であり、東京大学医科学研究所を経て医療ガバナンス研究所を主宰する上昌広氏は、著書『病院は東京から破綻する』で、深刻な看護師不足の現状についても明かしている。その解決策とは。

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 高齢化が進む日本で、看護師不足対策は喫緊の課題です。ところが、その解決は医師不足以上に困難です。看護師の多くが女性であり、他の地域からの移住が期待できないからです。多くの看護師は、地元の学校を卒業し、地元に就職します。結婚して家庭を持つと、看護師不足の地域で働くための「単身赴任」は難しくなります。看護師不足を緩和するには、看護師の労働条件を改善するとともに、地元での育成数を増やすべきです。

 海外から看護師を受け入れることも原理的には可能ですが、現実的ではありません。日本語という言語の壁があります。また、多くの新興国では看護師の社会的な地位は高いため、日本に来るインセンティブがないのです。

 労働条件の改善については、さまざまな対策が採られ、成果が上がりつつあります。日本看護協会によれば、新卒看護師の離職率は7.5%(14年度)。大卒の新入社員の約3割が入社後3年間で辞めるとされる中、看護師の離職率は飛び抜けて高いわけではありません。

 人口あたりの看護師の数は、人口あたりの看護師養成数に比例します。看護師が不足しているのは、地元での看護師養成数が少ないからです。首都圏の看護師を増やすには、地道に育成するしかありません。看護師養成数にも、地域間格差があります。12年現在、人口10万人あたりの看護師養成数は西日本が80人程度であるのに対し、関東は約40人に過ぎません。看護師数と同じく、養成数も2倍程度の差があるのです。この「西高東低」の格差は、日本の近代化を反映しています。明治以降、病院や医師会が中心となって、看護師を養成してきましたが、医師の数や医学部数は前述したように「西高東低」だからです。

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上昌広

上昌広

上昌広(かみ・まさひろ)/1968年生まれ。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所理事長。医師。東京大学医学部卒。虎の門病院や国立がんセンター中央病院で臨床研究に従事。2005年東京大学医科学研究所で探索医療ヒューマンネットワークシステムを主宰。16年から現職。著書に病院は東京から破綻する(朝日新聞出版)など

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