●ブータンは本当に「幸福の国」なのか

「そもそも、ブータンが『世界一幸福な国』というのは誤解です」

 長年ブータンを研究してきた早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター助教・平山雄大氏はそう指摘する。

「正しくは『世界一幸福な国を目指している国』。その目標を実現するための政策の柱がGNHで、幸福というイメージが独り歩きしてこうした誤解が生じたのだの考えられます」(平山氏)

 1970年代に当時のブータン国王によって提唱されたGNH。物質的な豊かさのみではなく、精神的にどれほど充足しているかを示すこの指標は、当時国際社会との交流を開始したばかりのブータンにとって国家のアイデンティティーの萌芽になり得るものだった。

 現在でもブータンの名目GDPは約20億ドル(2015年、国際通貨基金による)。調査対象となっている189カ国中166位と、世界でもかなり貧しい国のひとつであり、GDPが支配的な評価基準となっている国際社会で存在感を示すには、それ以外の尺度が必要だった。とはいえ2010年にブータン研究センター(現ブータン研究・GNH調査センター)が行った調査ではブータン国民の幸福度は6.1(0を「とても不幸」、10を「とても幸福」とした11段階評価)。日本の6.6(2012年、内閣府による)と比較しても、突出して幸福といえるわけではないのだが。

●ブータンは「実験国家」だった

 ではブータンの現状とはどのようなものなのか。先の平山氏は「多くの国がそうであるように、貧富の差の拡大や失業率の上昇、農村の過疎化など、さまざまな問題が山積している」という。なかでも問題視されているのが少年犯罪だ。

 ある現地人男性は「傷害や窃盗などに手を染める若者が増えた。10年前まではほとんど考えられないことでした。インターネットやスマートフォンの普及で海外の映画やドラマを見る若者が増えたからともいわれます」と語っていた。

 ブータンの統計局が発行している年鑑には、少年犯罪に限定されたものではないが、確かに犯罪件数の上昇が見られる。例えば、2014年の資料に掲載された2008年と2013年の犯罪件数を比較したグラフ。窃盗等は436件から786件、傷害等は440件から644件、強盗等は310件から486件となっており、確かに治安悪化の兆候はあるようだ。

「海外メディアの影響」という観点ならば、平山氏からこんな話を聞いた。

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