3歳児の記念撮影スポットとして人気を集めているしなの鉄道の三才駅。写真ではエプロンはしていないが、女の子用の駅長帽子をかぶりご満悦だ
3歳児の記念撮影スポットとして人気を集めているしなの鉄道の三才駅。写真ではエプロンはしていないが、女の子用の駅長帽子をかぶりご満悦だ
「三才駅は家族の愛を表現できる場所」と話すウェルカム三才児プロジェクトの太田さん(右)。駅舎南側の駅名板は、123歳までの記念撮影に対応している
「三才駅は家族の愛を表現できる場所」と話すウェルカム三才児プロジェクトの太田さん(右)。駅舎南側の駅名板は、123歳までの記念撮影に対応している
駅の窓口で買える記念入場券。裏面にはスタンプを押すスペースがある
駅の窓口で買える記念入場券。裏面にはスタンプを押すスペースがある
ホームの駅名板で記念撮影をする親子
ホームの駅名板で記念撮影をする親子
ホームに入ってきた普通電車。グレー地に赤、白のラインが特徴的だ
ホームに入ってきた普通電車。グレー地に赤、白のラインが特徴的だ

「三つ子の魂百まで」とあるように、長い人生の出発点ともいえる3歳。そばやリンゴが有名な長野に、そんな3歳児が全国から訪れる名所があるという。長野県北部を走るしなの鉄道・北しなの線の「三才駅」(長野市三才)だ。ちょうど筆者の娘も3歳。2016年4月末、休みを利用して行ってみた。

関西から車で500キロ余り。約8時間かけてようやくたどり着いた三才駅の駅舎は、なんとも普通だった。しかしその前に置かれた駅名板には、記念撮影をする3歳とみられる子どもと家族の姿が。子どもは撮影用の駅長帽子をかぶり、誇らしげなポーズ。カメラのシャッターを押すのは、地元住民らでつくる「ウェルカム三才児プロジェクト」 のメンバーだ。土日や祝日に駅周辺で来訪者をおもてなしする。

 駅の窓口で大人と子どもの入場券がセットになった記念入場券(290円)を購入し、駅舎の外で記念撮影する。女の子用の駅長帽子をかぶり、制服柄のエプロン を着けた娘はうれしそうだ。枠に身長を測定できる目盛りが付いた駅名板の前に立ち、ピースサインをする。プロジェクトのメンバーが、1枚目は駅名板が入るように、2枚目は後ろに下がって駅舎が入るように撮影してくれた。やや緊張ぎみだった娘の表情が、記念品の折り紙こまをもらうと笑顔になった。

 三才駅は1958年、旧国鉄の停車場として開業。プロジェクトによると、地名の「三才」の由来は、「三才山(みさやま)」だとか、地元住民らが守護神としていた「諏訪社・御射山社(みさやましゃ)」だとか、諸説あるという。当時は飯山線の普通列車のみが停車していたが、周辺に学校が建ち、宅地が増えたことから1966年に停車場から「駅」に昇格 、幹線の信越本線の列車も停まるようになった。

 そして2015年3月、北陸新幹線が長野から金沢まで延伸したことにより、信越本線の一部(長野―妙高高原間の37.3キロ)はしなの鉄道が北しなの線として運営することになり、三才駅もしなの鉄道の管轄となった。

 珍しい駅名ではあるが、なぜ有名になったのか。その理由は2008年までさかのぼる。名古屋市の商業施設「ラシック」が、開業三周年記念キャンペーンに三才駅を起用したのだ。新聞広告などには駅名板の写真と「ここはずっと三才、私たちは三才になりました」というキャッチコピーが用いられ、施設内には模擬駅を設けて記念撮影できるようにした。

 こうして駅の存在を知った人たちが、“本物”の三才駅を訪れるようになったのだという。当初は名古屋ナンバーの車が多かったが、口コミやインターネットなどで広まり、プロジェクトによると、現在は全国各地から年間2万人(推定)が訪れるという。3歳児連れや鉄道ファンが多いが、「三才」という珍しい名字の家族や、3歳の犬を連れた飼い主もいたそうだ。

 駅を訪れる人の増加に伴い、2013年、住民らがプロジェクトを設立。記念写真の撮影係や観光案内、駐車場所への誘導などでおもてなししている。駅舎内には、電車や撮影の待ち時間に読んでもらおうと、『がたんごとんがたんごとん』や『しゅっぱつしんこう!』といった鉄道を題材にした絵本を50冊程度集めた本棚も設置した。

 事務局長の太田秋夫さん(64)は「時間とお金をかけて来てくれる皆さんを、心を込めてお迎えしたい」と話す。「記念写真は家族の愛情表現の形であり、地元の人たちと触れ合ったことは良い思い出になる」と、子どもたちとの会話を楽しむようにしている。「子どもや親が帰り際に手を振ってくれたり、ハイタッチしてくれたりするのがうれしい」(太田さん)。

 きょうだいの下の子が3歳になり再訪する、成長して子どもが生まれ、3歳になり訪れる、といったリピーターも多い。ホームにある駅名板では、3歳の誕生日だという男の子が、昨年、自身も3歳で 来たという4歳の兄とポーズを決めていた。

 ある時、53歳の女性が「ごじゅう」と書いた紙を準備して「写真を撮ってもよいですか」と関東地方から訪れた。これを知った地元の自動車販売店が14年、気を効かせて「じゅう」から「ひゃくにじゅう」まで、10歳刻みの年齢看板をプロジェクトに寄贈。3歳児のみならず、13歳から123歳まで記念写真が撮影できるようになった。 プロジェクトが確認した限りでは、これまでの最高齢は73歳だそうだ。

 さらに現在、プロジェクトも協力し、三才駅を題材にした楽曲の制作が進められているという。地元出身で、夏に33歳となる演歌歌手の男性が作詞・作曲を手掛け、今秋に男性の全国デビュー作ともなるCDが発売される予定だ。

 しなの鉄道も、こうした地元の盛り上がりを歓迎する。山間部を走る北しなの線は利用者が少なく、国や地元自治体の支援があって経営が成り立つ路線だという。車での来訪者も多いため、なかなか鉄道の利用者増にはつながりにくいが、同社の担当者は「地元の人たちと連携して三才駅を含む沿線の利用促進を図りたい」と話す。

 3歳児の記念撮影スポットかと思いきや123歳まで、はたまたペットも受け入れられているとは。さすが宗派を超えて信仰を集めるお寺、善光寺のある長野。その懐の深さ、地元の人たちの優しさに感じ入ってしまった。家族の誰かが「3」のつく年齢になったら、また来よう。(ライター・南文枝)