“世界一清潔な空港の清掃人”新津春子さん(左)と、NHKの敏腕ディレクター・築山卓観さん
“世界一清潔な空港の清掃人”新津春子さん(左)と、NHKの敏腕ディレクター・築山卓観さん
いつも笑顔を絶やさずに清掃をする新津さん
いつも笑顔を絶やさずに清掃をする新津さん
「人と比べるのではなく、私は自分と自分を比べます」新津さんはいつも前向き
「人と比べるのではなく、私は自分と自分を比べます」新津さんはいつも前向き

 イギリスにある世界最大の航空業界格付け会社・スカイトラックス社が公開している格付けランキングで、2013年、14年の2年連続“世界で最も清潔な空港”に選ばれた羽田空港。その栄誉の裏に、ひとりの女性の長年の努力が存在していることをご存じだろうか。

 彼女の名は新津春子。羽田空港国際線ターミナル、第1ターミナル、第2ターミナル清掃の実技指導者だ。

 彼女の名前は、NHKのドキュメンタリー番組「プロフェッショナル仕事の流儀」の弱冠30歳のディレクター・築山卓観氏の「一目ぼれ」をきっかけに世の中に知れ渡ることになる(築山氏は2014年・2015年と第一制作センター賞を受賞している凄腕ディレクターでもある)。

 その「一目ぼれ」は、のちに2015年の「プロフェッショナル仕事の流儀」の中で最高視聴率をとった「心を込めて あたりまえの日常を」という番組に結実することになったのだ。

 少し長くなるが、築山氏自身が記した文章を全文紹介しよう。その新津さんの姿勢に、私たちは背筋を伸ばさないわけにはいかないからだ。

*  *  *

●新津さんのこと

「誰がやったから、じゃないのよ。キレイですねってお客さまが思ってくれる、それで十分じゃないですか。お客さまが喜んでくれれば、それでいいんです」

 密着ロケの終盤。深夜3時、誰もいない羽田空港のトイレでこの言葉を聞いた時、思わず熱いものがこみ上げてきたのを今も鮮明に覚えています。ビル清掃のプロ・新津春子さんが教えてくれた仕事の流儀。私にとっても今、仕事に向き合う時の大切な指針です。

 2014年10月。私は「プロフェッショナル仕事の流儀」というドキュメンタリー番組の取材で、羽田空港にいました。企画していたのは「清掃のプロ」。日本の清潔さは、まさに世界屈指、ならばその美しさを支えている凄腕清掃員もいるはずだと考えたのです。そして幾人もの清掃員の方を取材していく中で耳にしたのが「羽田空港に、日本一の清掃員がいる」という噂。こうして人づてにたどり着いたのが新津春子さんでした。

「待たせたねー、場所わかりにくかった? ごめんなさいね!」

 人懐っこい笑顔で迎えてくれたのは、想像よりも小柄で細身の女性。体力勝負の清掃で技能日本一と聞き、勝手に大柄でたくましい女性をイメージしていた私にとって、終始ニコニコ顔で全く凄みを見せない新津さんは、正直意外でした。

 そして、その半生はもっと意外。少し片言の日本語だったのでお話を聞くと、第2次世界大戦の時に中国に取り残された日本人を父に持つ、中国生まれの残留日本人孤児2世だというのです。「17歳で日本に帰ってきたんだけど、家族みんな日本語できないでしょ?だから仕事もなくて。でも言葉できなくても清掃はできるから、それから20年以上、ずっと清掃の仕事をしてるの」

 さらに新津さんは続けました。「清掃の仕事は確かにきついです。3Kって言われてる。まだ社会的地位も低いと思う。でも、だから何? 私は気にしてない、だって私はこの仕事が大好きだから」。

 そう言ってにっこりとほほえんだその笑顔に一目ぼれし、その場で出演をお願いしました。

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