翻訳家・小野寺百合子(c)朝日新聞社
翻訳家・小野寺百合子(c)朝日新聞社

 童話「ムーミン」の訳者は数奇な人生を送っていた!?――フィンランドの作家、トーベ・ヤンソンの名作として知られる「ムーミン・シリーズ」。これを日本に紹介したのが翻訳家・小野寺百合子(1998年没、享年92歳)だ。エレン・ケイの「児童の世紀」(富山房百科文庫)、バルブロ・リンドグレンの「マックスのくまちゃん」(佑学社)など、日本では数少ない北欧・スウェーデンの書籍を翻訳したことで知られる。

 百合子がスウェーデンに携わったのは、夫・信(まこと)の赴任先・ストックホルムへの同行がきっかけだ。百合子の夫は、公使館に勤務するミリタリー・アタッシュ(軍人外交官)として、当時、北欧諸国では「欧州の日本スパイの親玉」と呼ばれた凄腕のスパイ、情報畑の陸軍軍人だった。その活動を妻として支えたのが百合子、その人である。

 74年前の今日、1941年(昭和16年)12月8日、太平洋戦争が開戦した。これに先立って今の東京・三宅坂にあった軍中央には北欧・スウェーデンから約30通、ほぼ同じ内容の電報がたて続けに届けられた。

「日米開戦絶対不可ナリ――日本とアメリカの戦争は絶対に行ってはならない」

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