野田佳彦前首相が衆議院の解散を明言した昨年11月14日、1ドル=79円台だった円相場は、「アベノミクス」を掲げる安倍政権が誕生すると一気に下落した。2月16日に閉幕した主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で直接的な「円安批判」が回避されると、一時は1ドル=94円台まで円安が進行したのだ。

 株高につながる、輸出企業の業績が改善する、為替差益が生じる──そんなメリットばかりが喧伝されがちな円安。だが円安が進めば当然、輸入品の価格が上がる。企業や市民生活にも影響は広がる。日本総合研究所の牧田健・マクロ経済研究センター所長は言う。

「円安は輸出企業にはプラスに働くが、そこが雇用や賃金を増やしたり、国内に新工場を建てたりすることは考えにくい。円安のメリットは以前より薄らいでいる。一方で内需型企業にとっては確実にデメリットとなり、家計への打撃も避けられない」

 そもそもなぜいま円安になっているのか。JPモルガン・チェース銀行の佐々木融・債券為替調査部長はこう解説する。

「米国経済の回復、欧州危機懸念の後退によって2013年は世界の投資家が積極的にリスクを取る、いわゆるリスクオンの状態になっている。そのことが円を弱くしています。さらに日本の貿易赤字がじりじり増えており、輸入企業によって円売りの勢いが支えられている。こうした流れを、安倍晋三首相の一連の発言が後押ししている形です」

 世界経済が安定している限り円だけが弱い状況は続き、

「リスクオンの状況が継続するなら、今後2、3年で1ドル=105~110円まで行ってもおかしくない」(佐々木氏)

AERA 2013年3月4日号