テーマは、ペアリング。ホッキョクグマ/上野動物園(東京都)
テーマは、ペアリング。ホッキョクグマ/上野動物園(東京都)
テーマは、親子。テングザル/よこはま動物園ズーラシア(神奈川県)
テーマは、親子。テングザル/よこはま動物園ズーラシア(神奈川県)
テーマは、雨の日。コツメカワウソ/千葉市動物公園(千葉県)
テーマは、雨の日。コツメカワウソ/千葉市動物公園(千葉県)
テーマは、親子。ワオキツネザル/上野動物園(東京都)
テーマは、親子。ワオキツネザル/上野動物園(東京都)

 動物たちの“幸福な暮らし”を実現するため、具体的にどうすればいいのか? こうした「環境エンリッチメント」という観点から、全国で個性的な動物園が増えています。そんな動物園の動物たちの日常を撮り続けている、動物・写真家のさとうあきらさんの連載「どうぶつサプリ」。今回は、写真を撮るときに大切な“テーマ”についてです。さとうさんがなぜ「動物園・水族館」写真家になったのか、その理由も明かしてくれました。

【テーマ別に撮影した動物たちの写真】

*  *  *

 撮影する時には「テーマ」を持つ必要があるとわたしは考えています。テーマを日本語で表現すると「主題」です。「テーマ=主題」を持つということは「目的を持って撮影にのぞむ」ことです。目的を持つというのは、何のために撮影するのか、ということにもつながります。

 テーマを持つのは、そんなに難しいことではありません。わたしがカメラを持って撮影を始めた頃は、どんなものでもパチリパチリと写していました。当時は、カメラを使うことが面白くて、写すことの楽しさだけで満足していたのです。それが、たくさんの写真を撮っていく過程で、もの足りなさを感じるようになり、被写体を探して撮影するようになりました。ここで、初めてテーマを意識するようになったと言えます。

 しかし、ここで意識したのは「写真に向いている被写体」、別の表現をすると「写真として見栄えのする被写体」です。フォトコンテストに応募するために、どんな写真を撮るのがよいのかな、と考えながら歩き回りました。神社で明治時代からタイムスリップしたような帽子にマント、ステッキに下駄(げた)ばきのおじいさんに出会ったので、声をかけて撮影した写真が入選したことを覚えています。何かを伝える写真というよりも、カメラを操作することや見た瞬間がプリント写真になるだけでワクワクした、という時期です。目的はコンテストに入選することであり、そのためにテーマを探し、写真を作っていたということになります。

 現在のわたしは「動物園や水族館に暮らしている動物たちの日常を記録する」ことを中心に撮影しています。なぜそう決めたのか? それにはアフリカのケニアで、国立公園の野生動物たちの暮らしぶりを見た体験が大きく影響しています。ケニアに行く前は、野生の動物たちが広い土地に自由に暮らしているのだと思っていました。ところが自分の目で見た野生の動物たちは、国立公園であっても密猟されるので動物保護官(レンジャー)が守っていること、さらに、公園の外のある農園などに出た場合は、殺されることもあるのだという現実を知りました。アフリカに住んでいる野生動物たちも、国立公園でなければ暮らせない、しかも、人間の管理を必要としていたのです。野生の動物も人間の管理下におかれている、という事実を知ったことで、野生動物を人間が管理する、という意味を少しでも知りたくて日本の動物園を、もう一度、見直そうと考えました。

 動物写真を掲載した最初の本は『みんなのかお』(福音館書店)です。この本は、動物園に暮らしている動物の顔写真を見開きページに21頭ずらりと並べた構成で、ゴリラならゴリラたちの、ラクダならラクダたちの個性ある顔と表情を楽しめます。読者の方から「動物園の動物たちを卒業したら、次は野生動物を撮影してください」という趣旨のお手紙をもらったことがありました。わたしからの返事は「ケニアで野生動物たちを見たことで、動物園の動物を撮影するようになりました。動物園の中で暮らしている動物たちの日常を知りたくて撮影を続けているのです」でした。

 動物園や水族館の動物たちを何のために撮影をしているか、それは、動物たちの日常を写真に撮ることで、彼らをもっと理解したい、さらに、わたしが感動した動物たちの場面をほかの方々にも見ていただきたい、という理由からです。撮影する前に、目的は何かを確認します。雑誌に掲載する、記録として保存する、友人に渡す、などです。その上で、目的に合ったテーマを考えて「顔」や「親子」と決めて撮影するようにしています。テーマは、事前に決める場合もありますが、撮影してみてから変更する場合もあります。どちらにしても、シャッターを切る前にテーマを決めて、狙いを自分で明確にしています。

 写真は、表現するための一つの手段に過ぎません。写真を使って何かを表現してやろう、という考えよりは、この内容を伝えるには、写真が適している、と思える使い方になると写真の質が一段と向上するでしょう。(写真・文/さとうあきら)

さとうあきら
動物・写真家。写真を見たみなさんが、「動物園や水族館で暮らしている素敵な動物たちに直接、会いに行って欲しい!」という願いを込めて撮影しています。
著書に『動物園の動物』(山と渓谷社)、『みんなのかお』、『こんにちはどうぶつたち』(福音館書店)、『おしり』『どうぶつうんどうかい』(アリス館)ほか多数。季刊『サイエンスウィンドウ』(科学技術振興機構)で、「動物たちのないしょの話」も連載中