4月13日、さいたま地裁の大熊一之裁判長は、3件の殺人など8人の被害者に対する計10件の罪を木嶋佳苗被告(37)の犯行と認定し、求刑どおり死刑を言い渡した。だが、木嶋被告の被害に遭ったのは8人だけではない。
 木嶋被告が逮捕される直前まで同居していた40代の男性は、検察側の証人として裁判にも出廷し、自身の詐欺被害を訴えた。だが、立件されないまま4月13日の判決を迎えてしまった。
 男性が、登録していた婚活サイトで、木嶋被告と知り合ったのは2009年9月15日。埼玉県富士見市内の駐車場で大出嘉之さん(当時41)の遺体が発見されて約1カ月後のことだった。
 やり取りを始めると、木嶋被告からはすぐに、「お菓子教室を開こうと考えていたが、支援してくれていた男性が亡くなってしまいました。クレジットカードで買ったオーブンやコンロなどの支払いができず、住んでいる賃貸マンションにも違約金を払わなければなりません。援助してください」という趣旨のメールが送られてきた。男性は翌16日に、当時木嶋被告が住んでいた東京・池袋のマンションで初めて会い、その次の日、木嶋被告に現金や銀行振り込みの形で計253万円を渡したという。
 木嶋被告は男性との同居を望み、19日には男性宅にベッドや洋服ダンスを運び入れた。その後、男性は20日と21日にも計200万円を渡した。うち100万円は後に返金されたが、いまも353万円は返ってきていないという。
 21日には男性自身も千葉県警に呼ばれ、「あの女は『睡眠強盗』のような怪しいことをやっているかもしれない。あなたもお金を渡しているようだが、場合によっては被害届を出しますか?」と事情を聴かれたが、木嶋被告を疑う気持ちはみじんもわかず、断ったという。
 木嶋被告が埼玉県警に詐欺容疑で逮捕された数日後、男性は家中すべての火災報知器が取り外されていることに気づく。後に、同居を始めたころ、木嶋被告が練炭や練炭コンロを注文していたことも分かったという。男性は当時を振り返ってこう話す。
「私もほかの被害者と同じように騙されていたんでしょうね。一歩間違えば、自分も死んでいたかもしれません」

※週刊朝日

 2012年4月27日号