室井佑月
室井佑月

 作家・室井佑月さんは、防衛費増額を受けて、日本が何を目指しているのか知っておきたいと声を大にする。

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 岸田首相が、2023年度以降5年間の防衛費を43兆円にすると表明した。GDP比で2%というやつである。

 それと、敵基地攻撃能力(先に敵のミサイル発射基地などを叩[たた]くこと)を、この国が保有することも決めた。

 いずれも国民はきちんとした説明を受けていない。説明無しでこれらのことが進められるのだから、そのうちこの国が核を持つことにも繋(つな)がってしまうのかもしれない。

 メディアはGDP比2%目標の防衛費拡大には、疑問を投げている。もちろん、そこも肝心である。が、まず日本が自国や親しい国を守るためにどこまでやるのか、また国を守るということはどういうことであるのか、という議論が徹底的に国会でなされなくてはいけないと思う。

 敵基地攻撃能力は、憲法に基づく専守防衛から逸脱しているのではないか。親しい国を守るとは、個別的自衛権の範囲を超えることではないか、などだ。

 それらについて語ることは、日本がどういう国であるのか、またどういう国を目指しているのかを語ることだと思う。

 ロシアのウクライナ侵攻や、台湾への中国の干渉のニュースを観て、不安になった人は多かろう。あたしは不安になった。

 不安がやたらと大きくなる一因は、「この国はこうなのだ」というものが見えないからだと思う。

 首相がコロコロ代わろうが、それでも変わらない「日本はこうしてやっていくのだ」という大事なことが見えてこない。

 いいや、小さくなら議論はされている。あたしがこういったことを語ると、

「中国に攻められたらどうするんだ。売国奴め」

 という右寄りな人は必ず湧いてくるし、

「莫大(ばくだい)な防衛費の批判だけしてりゃいいのに、軍備をどこまでという議論に進めるのは、平和主義に合っていない」

 という左寄りの人も湧いてくる。両方の陣営とも、つまりあたしに「馬鹿は黙っていろ」といってるわけだ。

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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