今年も夏が近づくと、書店には昆虫や動物などを紹介する本が多く並んだ。夏休みの間に子どもたちが自然とふれあい、自分とは違う生物たちに少しでも興味をもってもらえればとの期待が、陳列の背景にはあるのだろう。

 そんな中で、サビーナ・ラデヴァの『ダーウィンの「種の起源」 はじめての進化論』は異彩を放っていた。進化論の端緒となったかの古典が色鮮やかな絵本となっていて、私はつい手に取ってしまった。

<絵本という形で、子どもたちに観察する力を学んでもらい、自然界への好奇心によってすばらしい発見がもたらされるということを知ってほしかったのです>

 ロンドン在住の作者は、分子生物学を学んで修士号まで取得してからイラストの勉強をはじめ、科学とアートを結びつける仕事に取り組んでいるとのこと。この絵本はその象徴的な産物で、世界中で話題になっているらしい。

 しかし、学生時代に『種の起源』を読んだはずなのに内容を覚えていない私は、疑ってしまう。果たしてこの絵本の読者は、作者が企図したとおり子どもたちだろうか、と。なぜなら、ダーウィンが説いた「自然選択」にもとづく進化論の要点を、私はこの本を通読してすんなりと理解できたから。さらには、翻訳を担当した福岡伸一も指摘しているように、ダーウィンが革命的なアイデアを思いつく過程までも、美しいイラストの力によって追体験できるのだ。

 実は、この大胆で楽しい絵本を見つけた世界中の大人たちは、子どもに与えるふりをしつつ自分も読み、初めて進化論を理解しているのかもしれない。

週刊朝日  2019年9月6日号