マラウイ第2の都市ブランタイアにほど近い町チロモニ。Seiboはここに活動の拠点を置き、給食支援活動を行っている(チロモニ・マラウイ 2016年/Chilomoni,Malawi 2016)
マラウイ第2の都市ブランタイアにほど近い町チロモニ。Seiboはここに活動の拠点を置き、給食支援活動を行っている(チロモニ・マラウイ 2016年/Chilomoni,Malawi 2016)
椅子と机はほとんど備えられておらず、床に車座になって給食を食べていた。給食を残す子はいない(チロモニ・マラウイ 2016年/Chilomoni,Malawi 2016)
椅子と机はほとんど備えられておらず、床に車座になって給食を食べていた。給食を残す子はいない(チロモニ・マラウイ 2016年/Chilomoni,Malawi 2016)
土壌侵食から地割れが生じたケース。このすぐ先に、かつては森があった(チチメンベ・マラウイ 2016年/Chichimembe,Malawi 2016)
土壌侵食から地割れが生じたケース。このすぐ先に、かつては森があった(チチメンベ・マラウイ 2016年/Chichimembe,Malawi 2016)
植えられたグルーガムの木の苗。グルーガムの木は、土地に再び養分を与えてくれるものだと、フィスカ二は少し誇らしげに話していた(チチメンベ・マラウイ 2016年/Chichimembe,Malawi 2016)
植えられたグルーガムの木の苗。グルーガムの木は、土地に再び養分を与えてくれるものだと、フィスカ二は少し誇らしげに話していた(チチメンベ・マラウイ 2016年/Chichimembe,Malawi 2016)
立ち枯れたトウモロコシ。ハイブリッド種のものだ。化学肥料を十分に与えなければ、この種は育つことができない(チチメンベ・マラウイ 2016年/Chichimembe,Malawi 2016)
立ち枯れたトウモロコシ。ハイブリッド種のものだ。化学肥料を十分に与えなければ、この種は育つことができない(チチメンベ・マラウイ 2016年/Chichimembe,Malawi 2016)
ローカル種のトウモロコシ畑。チチメンベでは、ハイブリッド種を減らし、ローカル種のみの畑に戻せるよう、フィスカ二たちが中心となり、老若男女が一丸となって畑に向き合っていた(チチメンベ・マラウイ 2016年/Chichimembe,Malawi 2016)
ローカル種のトウモロコシ畑。チチメンベでは、ハイブリッド種を減らし、ローカル種のみの畑に戻せるよう、フィスカ二たちが中心となり、老若男女が一丸となって畑に向き合っていた(チチメンベ・マラウイ 2016年/Chichimembe,Malawi 2016)

 広大なアフリカ大陸のうち25カ国を訪ねてきた、フリーランスライターで武蔵大学非常勤講師の岩崎有一さんが、なかなか伝えられることのないアフリカ諸国のなにげない日常と、アフリカの人々の声を、写真とともに綴ります。

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 世界で5本の指に入る最貧国といわれるアフリカ南部のマラウイ。偶然の出会いから、そのマラウイで深刻な食糧不足が起きていることを知り、現地を訪れることになる。何度も唸(うな)らされることになった今回の訪問で、岩崎さんが感じたアフリカの問題と魅力とは?

*  *  *

 この夏、自宅近くのバーで、ひとりのアイルランド人と出会った。よどみなく日本語を話す彼は、私がたびたびアフリカの国々を訪ねていることを知ると、「マラウイには行ったことがありますか」と言って、ビールの入った自分のグラスを近づけてきた。

 デクランは、マラウイの保育園で給食支援活動を行うNPO法人「せいぼジャパン(以下、Seibo)」の代表だ。今、マラウイは、天候不順による食糧不足が深刻な状況なのだとデクランは言う。

「マラウイに行ってもらえませんか。岩崎さんに、マラウイを見てきてほしいのです。現地スタッフに岩崎さんのことを話しておきます。まだ今日の時点では約束できませんが、でも、私の心のなかでは、ほとんど決めた上でのお願いです」

 あまりに唐突な申し出に、私は半信半疑だったが、デクランの話に誇張や怪しさは感じられなかった。

 これまでに2度、私はマラウイを訪ねた。南北に細長く、東側に沿うマラウイ湖をいただく内陸国のマラウイは、どの地域を訪ねても田舎で質素だが、しかしまた、どの地域を訪ねても緑豊かで、人々が擦れていなかったことが印象に残っている。

 自宅に戻り早速調べてみると、2013年ごろから干ばつと多雨がマラウイ各地で散発的に繰り返されていた。国連WFP(世界食糧計画)によると、その影響でマラウイの人口の約40%が、食糧の緊急支援を必要とする状況に置かれる可能性が高いとされている。

 マラウイでいったい、何が起こっているのか。デクランの申し出を受け、現地を訪ねた。

 例年よりも早めの秋風を感じ始めた9月に日本を発ち、マラウイ第2の都市ブランタイヤの空港に到着した私は、Seiboが事務所を置く同国南部の街チロモニへと向かった。車窓から見える景色から、深刻さは感じられない。通り沿いには野菜や干し魚を売る光景が見られ、自動車の往来も多い。私は、支援機関の車両が頻繁に行き来し、やせ細った人が座り込んでいるような状況が目に入ってくるのかもしれないとかまえていたが、そのような風景はなかった。

 Seiboは、チロモニを拠点に、2015年からチロモニ周辺の保育園で給食支援活動を始めた。1日1食しか食べられない子どもが多いため、5歳以下の子どもたちに保育園での給食支援を続けている。幼い未就学児の心身の成長を促すことで、その後の小学校就学へと子どもの成長を確実につなげ、マラウイの未来を担う人材を育むことがねらいだ。現在は、保育園だけでなく、小学校での給食支援へと活動を広げようとしている。

 今回のマラウイ滞在中、チロモニの保育園と、同国北部ムジンバ県ムズズ地区に点在する小学校を、Seiboの現地スタッフとともに訪ねた。給食が子どもの成長を助けるだけでなく、給食目的とはいえ保育園に子どもを預けるようになったことで、両親が家事や仕事に専念できるという効用もあることを知った。

 また、ムズズでは朝食を食べる子どもはほとんどおらず、昼食として持たされるのもせいぜい麩(ふ)菓子程度だ。そのため、空腹で朝から始まる小学校の授業に集中できず、足が遠のく子どもが多いこともわかった。保育園や小学校で得られる1食がもたらすものは、想像以上に大きいのだ。

 子どもたちが十分に食べられている状況でないことは、保育園に子どもを通わせる両親や、小学校の先生たちの話から伝わってくるが、人口の40%もの人々が飢餓に陥る寸前だとの緊迫感を、チロモニとムズズで感じることはなかった。子どもたちの顔には笑顔が見られ、大きな騒ぎ声も訪ねる先々で聞こえてくる。やせ細った体つきの子どもを見ることもなかった。

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