いつの時代にも国民的アイドルはいる。けれど、まさか新書のレーベルを持つアイドルが出てくるとは。本書は「講談社AKB48新書」というレーベルから出版されたものであり、著者は、グループ卒業を間近に控えたAKB48グループ総監督・高橋みなみ(通称たかみな)だ。
 語り下ろしの形式を採っているため、彼女の筆致・文体について云々することはできないけれど、彼女がアイドルグループのリーダーとして経験してきたことを知るには十分だ。
 たかみなは、強力なリーダーシップではなく、痛みや弱さを知っているがゆえの優しさでみんなを支えるタイプのリーダー。「もしかしたら私は、本当は、前田敦子になりたかったのかもしれない。でも、なれなかった。なれないんだって、気付いてしまった」「リーダーは、孤独でいなければいけないのかもしれません」「私の頭の中にあるのは基本、『やばい』の3文字です。常に『大丈夫かな?』って思っている」……こんな風に考えるひとが、いざとなると「父」や「漫画の主人公」になった気分でメンバーに檄を飛ばす。このギャップが彼女の魅力であり、戦略でもある。ひとの上に立つことしかできないオラオラ系リーダーは、これを読んで反省して欲しいし、自分はリーダータイプじゃないと思い込んでいるひとは、その思い込みを取り払ういいきっかけになるだろう。
 幼少時は3人組の友だちグループに属していたが居場所がなく「集団の中に入ることで『個』を失ってしまうことの怖さを知った」と語っているのが印象的だった。ビジネスシーンに応用可能なリーダー論として読むのもいいが、やはり孤独な少女が自分の居場所を見つけるまでのドキュメントとして読むべきだと思う。アイドルはキラキラと美しい半面、過酷な商売でもある。だからこそ、その過酷さの中でまっすぐ立っていようとするリーダー・たかみなは、すごく魅力的だ。

週刊朝日 2016年3月11日号