ファッションに関する本を読むのは楽しい。でも、オシャレ上級者がアドバイスするタイプの本だけは、どうも苦手だ。なぜなら「あなたとは、そもそも素材が違うんですよ」と思ってしまうから。
 本書はそうしたストレスを一切感じずに読める、大変ありがたいエッセイだ。「自分に無理のない値段で、男装しているようにも見えず、自分が動きやすくて着心地もよく、周囲の人にも、多少はお洒落に気を遣っているなと思ってもらえる、TPOをわきまえた装い」を理想に掲げ、ファッション道を模索する20篇は、とにかく親近感がすごい。
 著者は、そもそもオシャレ上級者ではなく、50歳を過ぎたあたりから肉体的な変化にも悩まされ……つまり、極めて人並み。体型にコンプレックスがあったり、暑さ寒さに弱くなってゆく肉体を悲しんだり、安い服を洗濯してヨレヨレにしたりしている。
 でも、「みんなオシャレには苦労するよね~」と愚痴っておしまいではない。彼女は、似合う服や、着心地のいい肌着を探して、ずっと試行錯誤し続けている。高くて良いものだけではなく、良さそうだと思えば、ユニクロなんかも試す。その品定めが、とにかくしつこい。ある時点で気に入っていたものでも、あとになると「やっぱりナシ」とばかりに新たなものを探したりしている。まるで永遠に終わらない宝探しだ。
 自分が彼女と同じ年になったとき、ここまでオシャレについて考えられるかちょっと自信がない。というか、これほど粘り強く考えてもなお、オシャレの正解に辿り着かないのかと思うと、気が遠くなりそうだ。だが、年を取るにつれ、あらゆることが「この程度でいいか」と停滞してゆくのに比べたら、よっぽどいいのかも知れないとも思う。彼女は、アンチエイジングには反対だと語っているが、本書を読んでいると、ファッションに四苦八苦することで保たれる若さというのがある気がしてならない。

週刊朝日 2016年1月29日号