株式会社三陽商会 代表取締役社長 大江伸治(撮影/加瀬健太郎)

 自身2度目のV字回復。バーバリーとの契約終了後、低迷していた三陽商会を7期ぶりの黒字化に導いた大江伸治代表取締役社長。ゴールドウインの再建でも知られる氏だが自身を「リアリストでありロマンチスト」と語る。戦略の裏側を伺った。この記事は発売中の「アエラスタイルマガジンVOL.56 SPRING/SUMMER 2024」(朝日新聞出版)より抜粋して紹介します。

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ビジネスはリアリズムがすべて

 

 プロ経営者とはかくや。大江伸治代表取締役社長は就任3年で三陽商会を黒字化に導いた。「一切の希望的観測は脇に置きましたね。売上目標をいったん下げ、多すぎた品番数を半分以上カットした。業績不振だった最大の理由はバーバリーの栄光時代を捨て去れなかったから。『これだけの規模はあってしかるべき』という期待値で大量の在庫を積むスタイルがそのまま残っていたんです」

 三陽商会といえば英国の『バーバリー』を40年以上にわたり日本に広めた立役者だが2015年をもってライセンス契約を終了。屋台骨を失った後は社長交代を繰り返せど業績は上向かず。そうしたなか、白羽の矢が立ったのがゴールドウイン再建で知られる大江だった。着任した20年は新型コロナウイルスとともに始まったが「悲観はしていない。打つべき手は打っている」と淡々と構えた。「ゴールドウインで実証済みの施策ですから黒字化には確信があった。プレッシャーはまったくありませんでしたね」
 
 23年、三陽商会が設立80周年を迎える節目の年に7期ぶりの営業黒字を達成した。大江としては2度目のV字回復だ。守りから攻めに転じるシーズンに入り今後は主ターゲットであるアッパーミドル市場での日本トップを狙う。1兆円に近いマーケットである。例年よりも暖かい1月某日、四谷本社で三陽商会の来し方行く末を語ってもらった。

経営再建に即座にイエスと言っていた

経営再建のミッションに大江はどう向き合ったのか(撮影/加瀬健太郎)

 2019年の年の暮れ、大江はゴールドウインをまもなく退任する予定だった。12年間の在任で鮮やかな黒字カーブを築き会社を成長軌道に乗せた。「当時72歳です。年齢的にも最後のキャリアを終えた気持ちでね」。音楽に読書にと悠々自適の退任後を思い描いていたはずだろう。父親がバイオリニスト、妹がピアニストという音楽一家に育った大江はクラシックにも一家言ある。三陽商会の経営再建の話が来たのはそんなときだった。

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大江の出した答えとは?