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 救急車を無料のタクシーのように安易に利用する人が増えており、出動件数が年々増加している。この不適正利用を減らす目的で有料化となった場合、救急車の適正利用の判断はどうなるのか。AERA 2024年4月1日号より。

【図を見る】救急搬送の半数近くは軽症者?

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 救急車の不適正利用に伴う利用件数の増加に対し、三重県松阪市内の3基幹病院が6月1日から緊急搬送されたうち入院に至らなかった軽症患者から保険適用外の「選定療養費」として一人(件)につき7700円(税込み)を徴収する。

この方針について現場の医師はどう考えるか。静岡県の総合病院に勤務する小児科医の男性は、松阪市の例を「将来の有料化への第一歩として、地方自治体として判断できる枠組みの中で行ったもの」と見る。

AERA 2024年4月1日号より

酸素投与や蘇生処置も

「搬送だけでなく酸素投与や、必要なときは蘇生処置までやってくれる救急車が無料なのは受益者負担の観点から言ってもおかしい、が大方の医療従事者の発想。本来はある程度のお金を払って乗せてもらうべきものだという『認識』を持つべきです」

 男性の案はこうだ。救急車には走行メーターを付け、「基本料金1万円+走行距離に応じた額」とし、搬送先の病院で支払う。ただし、医師が「救急搬送が妥当だった」と判断した場合はチケットを渡し、患者は後日、役所などで還付を受ける。

「『タクシーより高いこと』『いったんは払ってもらうこと』がポイントです。不適正利用の抑制につながると思います」

 さて、患者側はどうか。北海道に住む28歳の女性は、「正直、有料化には反対です」と話す。

「7700円はポンと出せる金額ではない。救急車を呼ぶのをためらってしまうかも」

 松阪市は「入院に至らなかった患者に一律に選定療養費が必要になるということではなく、あくまでも一つの目安。個別の病院・医師の判断により患者の状況も踏まえ徴収されるものです」(担当者)と説明する。しかし、女性はその点も気になる。

 1年前、当時3歳だった娘がパジャマのボタンを飲み込んでしまい、「少しおなかが痛い」と訴えたことから救急車を呼んだ。迷ったとき相談できる子ども医療電話相談事業「#8000」の存在は知っていたが時間外で利用することができなかった。

「お医者さんから『ボタンくらいなら救急車で来なくても』と。お医者さんはわかっても、素人目線ではわからないから呼んだのであって。その時々の先生の主観で判断、は引っかかります」

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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