懐かしのタコウインナーは429円。この値段からもわかるように、飲み物や食べ物はリーズナブルな価格設定だ

 確かに昭和という時代は、決して洗練されていたわけではなく、混沌(こんとん)の時代だった。その混沌さが今思えば美しき記憶であり、付随する忘れえぬ出来事と結びつきもする。そこまで計算し尽くされた店内には、特に年長者にとっては不思議な居心地の良さがあるのだ。「ただ、最近は、若いお客さまの割合も多くなってます」。富永さんは、落ち着いた口調で言った。「子どもに教えてもらったと言って来店してくださる、40~50代のお客さまや、子ども世代が自分の親を連れてくるパターンもあって、年齢層は広くなってますね。20代のカップルも多いですよ」。

 フードも、新旧織り交ぜて過不足なくそろう。おでん(110円~)や、昭和コロッケ(209円)、喫茶店のナポリタンスパゲッティ(539円)、チキンラーメン(319円)など、大人が思わず涙するメニューもあるが、ぜひ食べてほしいのはタコウインナー(429円)。味もさることながら、その形状の魅力は不滅だ。もう一つのお薦めは揚げパン(きなこ、319円)。学校給食でもおなじみだが、同店の一番人気メニューだという。口に入れれば、小中学校の思い出が鮮やかによみがえる。

 また、代々木ミルクホールは、酒の味が飲む環境で違うということを教えてくれる。ここまで昭和グッズに囲まれると、おじさん世代は、過去の喜怒哀楽の味がするはずだ。若い人たちは新しい感覚で、飲める仕掛けになっている。

 昭和について富永さんの印象を聞いた。「たとえば、アイドルにしても、いろんなジャンルの人がいたし、楽しいと思う。グッズも、昔のものは可愛いし温かみを感じます」。

 カウンターでふと見つけた木製の角柱があった。神社にあるようなクジ引きの箱だ。小吉だとハイボールが5%オフ、大吉なら無料になる。ただし、ハズレだと、1リットルのホームランサイズ(特大)のビールを飲むはめになる。1杯飲むごとに、何度でもチャレンジ可能だ。

 代々木ミルクホール本店は、エンターテインメント性にも満ちた居酒屋。老若男女が普段のモヤモヤを忘れて時を過ごせる場所でもある

(文  今村博幸 写真 関口 純/生活・文化編集部)