本連載の書籍化第5弾!『鴻上尚史のおっとどっこいほがらか人生相談』(朝日新聞出版)
本連載の書籍化第5弾!『鴻上尚史のおっとどっこいほがらか人生相談』(朝日新聞出版)

【鴻上さんの答え】
 はるさん。苦しんでいますね。「ほがらか人生相談」をよく読んで下さっているようですから、思い切って聞きますが、この相談によく寄せられる「毒親」に苦しめられている子供への回答については、どう思われていますか?

「毒親」の一番の問題は、毒親は自分のことを「毒親」だと思ってないことです。

 正直に言いますね。はるさんの相談内容は、かなり毒親がやっていることに近いと思います。

 はるさんが、長男に手をあげたことを覚えているのに、長女のことをあまり覚えてないのは、自分と同性であり、長男より年上の娘に甘えていたからじゃないでしょうか。

 だから、「娘の話を聞くより私の話を娘にたくさん」したし、「余裕がなく怒鳴りつけて」たし、手をあげていたことも忘れてしまっていたんじゃないかと思います。

 それは、はるさんが、息子より娘に依存し、娘を自分の“精神安定剤”にしようとしたということです。

 はるさんの相談が、はっきりと自分のしたことを見つめている場合は、はるさんは「毒親」から変わりつつあるということだと思うのですが、どうも、自分のしたことに対する理解が中途半端な感じがします。

「娘はここ1年ほど前から反抗期のようで」と書かれていますが、「反抗期」なんてことではないと、僕は相談を読んで思います。「反抗期」の娘が、「14年前に離婚してから余裕もなく手をあげてしまったり、酷い言葉をぶつけたりした過去を話し出し」はしないでしょう。

 娘さんは、なんとか母親を受け入れようとしたのだと思います。「手をあげ、酷い言葉を投げかけ、娘の話を聞かないで、自分の都合だけを話す」母親を理解しようとして、繊細で思慮深い娘さんは、「小学校までは、いわゆる『イイ子』」であろうとしたのでしょう。

 それが、もう、限界に達したのです。それは、「反抗期」なんていう「よくある一般的なもの」ではないと僕は思います。

「娘が干した物がベランダにおちていたのを無視したところ」という文章もよく分かりません。娘が反抗するから、その腹いせとして無視したのですか? それは、つまり、娘が反抗するのは、ワガママだからと思っていたからでしょうか。「私は本当に嫌になってきていました」と書かれていますから、反抗の理由は自分にあるとは思ってなかったということでしょうか。

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鴻上さんが相談者に厳しい言葉を続ける理由