撮影:小野啓

 そんななかで撮影した、新たな「序章のような1枚」がある。

 誰もいない河川敷でトランペットを吹く女子高生。それは、大塚製薬のカロリーメイトの広告用に撮影した写真だという。

「普通の高校生なんですが、広告のために撮ってもいいよ、と言ってくれた子です」

 撮影は20年6月。コロナ禍で音楽コンクールが中止になり、学校で部活動もできなくなった。それでも自主練を続けている――小野さんはそんな彼女の姿を撮影した。

「撮影にあたって、広告の制作チームが高校生の思いをヒアリングしてつくった動画資料をたくさん見ました。それによって、コロナ禍の高校生がどのような状況に置かれているのかを知りました。ぼくが長年撮ってきた高校生シリーズを撮る意味が、今ある、と思いました」

なんでこんなに忙しいのか

 撮影を再開したのは22年2月。新たにインスタグラムで高校生を募集し、約半年間に北は札幌から南は鹿児島県薩摩川内市まで、60人あまりを訪ね、撮影した。

「22年春に卒業した子たちは高校生活と新型コロナの時期がかなりの期間重なっていました。さまざまな行事が軒並みなくなり、学校生活はほぼない、という人もいた。そんななか、ぼくが撮影する写真を『高校時代を残すものにしたい』という子は多かった」

 小野さんはコロナ禍で20年目となるこの作品をどうまとめるか悩んでいた。ところが、そのコロナ禍によって、作品に新たな意味を見いだした。

 20年前に作品を撮り始めたころは、出会った高校生とは最低限の話しかしなかった。

「写真というのは、そこから見えてくるものがすべてであって、仲良くなって撮るものじゃない、と思っていた。なので、相手とは少し距離を置いていた。その人のバックグラウンドを根掘り葉掘り聞くようなことはしなかった」

 ところが最近は、コロナ禍を経た高校生たちの話に熱心に耳を傾けるようになった。

「コロナ禍の状況はどうだったのか、知りたかった。だからこそ、どんな写真を撮ってほしいのか、詳しく聞くようになった」

 最近の高校生について、びっくりしたこともある。

「なんでこんなに忙しいのか、と思うくらいみんな勉強やバイトで忙しいんですよ。なので、撮影のアポイントメントをとるのは大変でした。ぼくの高校時代はすごく暇だったんですけどねえ(笑)」

アサヒカメラ・米倉昭仁)

【MEMO】小野啓写真展「私のためのポートレート」
富士フイルムフォトサロン(東京・六本木) 3月8日~3月21日