エッセイスト 小島慶子

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復してきた小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 日本の少子化は想定よりも10年以上早く進行しているそうです。去年の出生数は過去最少の75万8千人あまりで、8年連続の減少。結婚の件数も減少して去年は50万組を下回り、今後もさらに出生数が減少すると見られています。

 そう聞いても、不思議な感じはしません。非正規雇用で働く人が多く、経済的余裕がない。仕事と育児の両立が難しい。他の国々に比べてジェンダーギャップが大きく、育児の負担が女性に偏っている。意思決定層には熟年男性ばかり。少子化になることはずっと前からわかっていたのに効果的な対策が打てないまま、想定以上の速さで少子化が進んでいます。

 本当に本気だったのでしょうか。政治家は、少子化は子どもを産みたがらないわがままな女たちと結婚したがらない不甲斐ない男たちのせいで、政治が真剣に取り組むべき課題ではないと本音では思っていたのではないでしょうか。

2023年11月、参院予算委で「異次元の少子化対策」の財源について答弁する岸田文雄首相

 子どもを産むか産まないかは個人の選択ですが、産みたいけど幸せになれそうにないから産まないという人はたくさんいます。個人にとっては子どもは数字ではありません。家族です。親も子も安心して幸せに暮らしたいのです。それが叶わないなら、子どもを諦めようと考えるのは当然ですよね。それに国は真剣に向き合ってきたでしょうか。出生数を増やすために女性に子どもを産ませるにはどうすればいいかという発想では、少子化は決して止まりません。「女性とその家族をどうしたら幸せにできるか」という視点で取り組むべきなのです。従来の「働く男性とその家族」モデルでは、男性は仕事に没頭、女性は男性と子どもの世話係です。「女性とその家族」には、男性も含まれます。女性の幸せを第一に据えた時に、男性の生き方の幅も広がるでしょう。この国に生まれて幸せだと思う人を増やすのが最善策です。

AERA 2024年3月11日号

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小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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