悩みました。悩みの時代は、ずいぶん長かったように思います。結果、僕なりにつかんだ答えは、直感。つまりそれ以外を、

「手放すしかない」

 これでした。いいことも、悪いことも、ぜんぶ受け入れて、そして手放す。

 ボーッとする。すると、直感が舞い降りてくる。それを信じて、そこで何が起こるか、自分で自分を見届けよう。深く考えるのが不得手な僕にはこれしかない。

 あんなに覚えた台詞すら同じです。どんなに自分の細胞と密着した台詞でも、演じたそのときに音もなく成仏していく。スーッと体から抜けていく。おかしな言い方になりますが、よく抜けきったときほど、後味のいい演技になりました。撮ったら手放す、撮ったら手放す、そのリズムで前進できる。そのためには、過去の怒りや大失敗、懺悔や消えない後悔の念も生きながら手放すしかない。そう気づいたのは、ここ数年のことです。

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草刈正雄

草刈正雄

草刈正雄(くさかり・まさお) 1952年福岡県生まれ。69年デビュー。70年に資生堂のCMに起用され人気を博す。以後、俳優としても活動開始。74年に映画『卑弥呼』で映画デビュー。以来、『復活の日』『汚れた英雄』など数々の話題作に主演するほか、テレビドラマ、舞台でも幅広く活躍。2016年のNHK大河ドラマ『真田丸』や19年の連続テレビ小説『なつぞら』などでもさらに話題を集める。09年から教養バラエティ番組『美の壺』(NHK BSプレミアム)の2代目ナビゲーターを務め好評を博している。近刊に、『ありがとう!──僕の役者人生を語ろう』(世界文化社)

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