リスクを恐れず大志を抱け!が酷な時代(イラスト:サヲリブラウン)

 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

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 日経平均株価が、バブル期に記録した最高値に迫る勢いだそうです。本当に? 好景気、まったく実感できません。株価上昇の要因が物価高と円安にあるからでしょう。

 バブル期、私は中学生でした。1990年代初頭に崩壊したので、高校時代には終焉。つまり、アルバイトや購買などでバブルの恩恵を受けた記憶はほとんどありません。それでも、世の中が明るかったのは覚えています。当時は経済の理解が乏しかった可能性をさっぴいても、あの頃のような景気の良さを、いまは体感できません。そりゃそうです。実質賃金は下がり、物価高と円安は続いているのだから生活実感はゼロで当然。

 バブル崩壊後、90年代半ばの為替相場(対ドル)は強烈な円高でした。なんと95年4月には1ドル=79円75銭を記録。90年代初頭に大学生だった私は、大学生がバイト代で気軽に海外旅行をする時代を生きていました。

 当然、当時も苦学生はおりましたが、日々の生活や奨学金の返済が困難な大学生の問題が、社会でこれほど共有されていた記憶もない。これは「当時は存在しないものとされていた」ことが明るみに出たのか、それとも……。

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ジェーン・スー

ジェーン・スー

(コラムニスト・ラジオパーソナリティ) 1973年東京生まれの日本人。 2021年に『生きるとか死ぬとか父親とか』が、テレビ東京系列で連続ドラマ化され話題に(主演:吉田羊・國村隼/脚本:井土紀州)。 2023年8月現在、毎日新聞やAERA、婦人公論などで数多くの連載を持つ。

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