3月になると就職活動はいよいよ本格化する(写真/アフロ)

 世は、まさに「売り手市場」。一人の学生が何社も内定を勝ち取るのは珍しくない。本格化する就活を前に、「ほしい人材」を見いだす企業もあの手この手だ。AERA 2024年2月5日号より。

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 着慣れないスーツに身を包んだ学生が巨大なビルに吸い込まれていく。エレベーターを上がった先には、やわらかな光が差し込む木目調のフロアが広がる。

 オフィス空間を手がけるイトーキの本社。2018年にオフィスを東京・日本橋に移転して以来、いつもどこかを改装しているだけあって、社内は洗練された空気が漂う。

 同社の採用面接に挑む就活生を前に、人事統括部長の中村元紀さんはこう尋ねた。

「一生イトーキにいるなんて、思っていないでしょう?」

 学生たちはその場を取り繕って「そんなことありません」と答えるのかと思いきや、そうでもない。思い思いにキャリアプランを話し、自分の理想を説明する。学生たちは、正直だ。

「テレビをつけても転職のCMだらけ。人事統括部としても、いま採用活動をしている学生たちが生涯イトーキで働いてくれるとは思っていないんです」

 と中村さんは言い切る。かといって、「どうせ辞める人材」と諦めているわけではない。

AERA2月5日号「企業が本当にほしい人材」特集から(イラスト/小迎裕美子)

応募者数「8倍」の裏側

「入社した方にはできるだけ長く活躍してほしいので、常に居心地の良い職場づくりを模索しています。その一方で、外に出ても通用する社員を育てる方向にシフトしています」

 社員の退職は、一時的に見ればマイナスだ。だが、いまや2人に1人が転職する時代。退職者が転職先で活躍してくれれば、会社自体の評価も上がる。「イトーキなら成長できる」というイメージがつけば、優秀な学生が志望してくれると踏んでいる。

 一方で、こんな困ったことも起きている。

「イトーキはリーディングカンパニーを目指し、それに本気で挑もうとする風土があるし、挑戦心のある学生には、ぜひきてほしい。ただ、入社してすぐにやりたいことに挑戦できると思い込んでいる学生さんが増えてきたと感じています。面接のなかで『応援する風土はあるけど、まずは与えられた業務に真摯に向き合い、周りの同僚や上司に認められることも重要だよ』と伝えています」

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福井しほ

福井しほ

大阪生まれ、大阪育ち。

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