中部電力の「影響評価」は、「岩屑なだれ、地滑り及び斜面崩壊」について、「いずれの火山も敷地との距離が50キロよりも遠いため評価の対象外とする」との判断だ。つまり、富士山の山体崩壊による被害を想定していないのだ。

 他方で中部電力では、南海トラフ巨大地震による津波対策として、長さ1.6キロにも及ぶ海抜22メートルの防波壁を設置している。

 高橋さんは、こう指摘する。

「大規模に山体崩壊をし、直接駿河湾に土砂が流入するようなことがあれば、浜岡原発に20~30メートルの津波が到達する可能性があります。また、浜岡原発は駿河トラフに近接しており、最悪の事態としてもし巨大地震に山体崩壊による津波、そして火山灰なども重なれば、原発に深刻なダメージをもたらすおそれが大きい」
 

「浜岡原発は最悪な場所に立地」

 福島第一原発の事故の経験をふまえ、電力会社には災害に対して万全を期すことを期待したい。しかし、高橋さんは「問題点は“人災”」と言う。

「福島第一原発事故は、津波リスクを過小評価したり、地下に非常用電源を設置したりするなど、“人災”によって引き起こされました。どんなに完全な対策をしても、人災リスクまでは排除できません。日本のエネルギー事情を考えれば、原発再稼働には反対しませんが、この浜岡原発だけは災害リスクの点で最悪な場所に立地している。ほかの原発とは同じに扱うことはできません」
 

 東日本大震災からまもなく13年。岸田政権は、原発のリプレース(建て替え)や60年を超える運転容認など、全国各地で「原発回帰」の動きを強めている。

 さまざまな危険性が指摘されているリスクが現実のものとなったとき、もう「想定外」と言うことはできない。

(AERA dot.編集部・吉崎洋夫)

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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