違いを乗り越えた結束を象徴する「ワンチーム」、試合終了後は健闘をたたえ合う「ノーサイド」など、ラグビーから広まった言葉も多い(写真:千葉 格/アフロ)

 4年に1度のラグビーの祭典、ワールドカップ2023がフランスで開幕した。「Our Team」を合言葉に、異なる個性を発揮して目標へと団結する選手たち。宇宙飛行士・星出彰彦さんが、ラグビー経験によって培われたものを語った。AERA 2023年9月18日号より。

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星出彰彦(ほしで・あきひこ)/1992年に宇宙開発事業団(現JAXA)入団、2001年に宇宙飛行士となる。21年には国際宇宙ステーションに198日間滞在し、約5カ月間、船長を務めた(写真:JAXA)

 初めてラグビーを体験したのは中学校の体育の授業です。その後高校2年で留学したシンガポールでラグビー部に入り、進学した慶應義塾大学でも理工学部体育会ラグビー部でプレーしました。僕は日本人のなかでも体格が大きな方ではないけれど、ラグビーは体の大きい人、小さくて敏捷性がある人、力の強い人など、いろいろな人が活躍できる可能性がある。そんな多様性に惹かれました。

 理工学部ラグビー部は大学ラグビーで有名な慶應ラグビー部とは別ですが、こちらも体育会なんです。ラグビー中心の学生生活でした。当時は理工系の大会は4年生の春シーズンが最後で、6月ごろで引退。だから、4年生になったとき、研究室の先生に「引退するまで研究室には来ません!」と掛けあいました。「引退したあとは寝ないで頑張りますから」と言って認めてもらいました。

 ラグビーと宇宙飛行士のミッションって、共通点が多いと思います。まず、チームプレーであること。ひとりひとりが役割を持ち、責任の一端を担いながら同じ目標に向かって取り組みます。私はラグビーで初めてその楽しさややりがいを感じました。自分を投げ出してでもボールを守り、チームとしてのトライを目指すんです。最後の大会で負けたときは号泣して、仲間と飲み明かしました。その絆は自分の財産です。国際宇宙ステーション(ISS)のミッションでも、宇宙飛行士だけでなく、地上の管制員やエンジニアなどスタッフひとりひとりがプロとして責任を持ち、同じミッションに向き合います。宇宙飛行士だけでは何もできない。大きなチームのなかで自分がどう貢献するかというマインドの原点はラグビーだったんじゃないかなと感じます。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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