先月入院して入れ替えた長女の新しい人工呼吸器。タッチパネルでとても使いやすいです。医療デバイスもどんどん進化していて、今後、医療的ケアの負担軽減につながるような気がします(撮影/江利川ちひろ)

「インクルーシブ」「インクルージョン」という言葉を知っていますか? 障害や多様性を排除するのではなく、「共生していく」という意味です。自身も障害のある子どもを持ち、滞在先のハワイでインクルーシブ教育に出合った江利川ちひろさんが、インクルーシブ教育の大切さや日本での課題を伝えます。

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 8月後半になりました。医療的ケア児の17歳の長女が人工呼吸器を導入してから、今月でちょうど3年になります。

 8歳で胃ろうをつくる手術をした後も、けいれん発作や、背骨が左右に曲がる側弯(そくわん)の進行により酸素吸入が必要になったり人工呼吸器が必要になったりと、自宅に次々と医療デバイスが増えました。そのたびに私も夫も深く考えさせられるのですが、最終的には「長女が快適に過ごすために不可欠なもの」という判断で決断してきました。

 今回は、在宅での医療的ケアの導入について書いてみようと思います。

双子の次女との差が顕著に

 長女が0歳児だった頃、双子の次女と一緒に受けた早産児のフォローアップ健診で、看護師さんに「チューブ(経鼻経管)を使わずにミルクが飲めてすごいね」と言われたことがありました。まだ長女の障害を受け入れられず、一方で次女との差も顕著に見え始めた頃であり、とても動揺しました。その頃の長女は、ミルクを飲み終わると10分程で吐いてしまうことがたびたびあり、食べ物を飲み込み、口から胃へと運ぶ「嚥下(えんげ)機能」に問題があるのではないかと不安に思っていたものの、誰にも相談することができなかったのです。

 主治医に状況を話せば、恐らく鼻からの経管栄養が必要となり「普通の育児」ではなくなります。次女との差を受け止めることがどうしてもできず、ひとりで悩んでいた時期でした。

 幸い、長女は成長とともに吐き戻しはなくなり、哺乳瓶からミルクを飲めるようになりました。3歳頃になると哺乳瓶の中身をエンシュア(※現エネーボ)という栄養剤に替えることで水分もエネルギーも摂取でき、身体はどんどん大きくなっていきました。
 

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江利川ちひろ

江利川ちひろ

江利川ちひろ(えりかわ・ちひろ)/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ。

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口から水分をとらず熱中症のような症状に