「マーケットの予測に比べてかなり低い日銀のインフレ率のもとですら、金融政策の調整が行われなければ、大幅にマイナスの実質金利がずっと続くわけです」

■住宅ローンが払えなくなる

 本来なら、利上げに着手しなければならないタイミングだが、日銀はそれができないジレンマに直面していると、藤田さんは考える。

「もし、日銀が100ベーシス(1%)、短期金利を上げると表明したら、政治的にものすごく反発があるでしょう」

 そう言うと、藤田さんは身近な例として住宅ローンを挙げた。

「日本では約7割の人が変動金利で住宅ローンを組んでいるといわれます。それを外国人に話すとびっくりします。金利上昇のリスクが大きいので、彼らは普通、固定金利を選ぶんですよ。ところが長年、ゼロ金利に慣れてしまった日本人にとって、変動金利は当たり前の選択になってしまった」

 特に心配されるのはタワーマンションなどをほぼ頭金ゼロで購入したダブルインカムの世帯だ。

「1%金利が切り上がったらものすごい利払いになります。ローンが払えなくなる人が続出するでしょう。それが社会問題化する可能性があります」

 一般の人々だけでなく、企業でも同様のことが起こるという。

「多少、金利が高くなっても継続可能な事業ならいいのですけれど、ゼロ金利を前提に進めてきたプロジェクトは、金利が上がれば立ち行かなくなります。当然、倒産も増えるでしょう」

■日銀も赤字に陥るリスク

 さらに、短期金利の引き上げは日銀自体にも問題を引き起こす。

 日銀の当座預金残高は約553兆円(23年4月末)。ちなみに、過去最大といわれる23年度政府予算、一般会計の総額は約114兆円である。日銀がこのバランスシートを維持したまま短期金利を引き上げると多額の利払いが必要になる。単純計算では、現状のまま政策金利を0.5%引き上げれば年間2.6兆円の利払い負担が生じ、日銀は赤字に陥る。

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