「音はもっと大きかったほうがいいとか、捕まえられたときの圧力がもっと『ばちーん』となったほうがいいとか言われまして。私たちにはまったくない考え方でしたから、『なんじゃそれはー!』って思いましたよ」(佐野社長)

 ただ、むちゃぶりと同時に伝わってきたのは、県警の担当者たちの執念ともいえる熱い思いだった。

 誰にでも扱いやすく、捕まえやすく、そして逃さない。そんな防犯製品があれば、起こりうる悲劇を食い止められるかもしれない。

「頭が痛くなる要望でしたが、一方で警察の方々のそんな熱意をしっかり反映した製品を作らなくてはいけない。そう感じたんです」

■海外展開も視野に

 試作を何十回と繰り返した末、開発期限までに「ケルベロス」などの製品は完成した。県警も太鼓判を押し、無事に納入することができた。

 同社はその後も改良を重ねつつ他県の警察や民間企業に販路を広げ、今は海外展開も視野に入っているという。

「『ケルベロス』などは不審者と戦う道具ではありません。動きを封じて、その間に逃げる。そのための道具です」と佐野社長は強調する。

 悪用を防ぐため、個人には販売しておらず、シリアル番号で販売先を把握。販売した後も使い方の問い合わせなどに対応している。

「犯人は現場を下見すると聞きますが、警備会社のステッカーのように『ケルベロス』などの防犯製品が配備されていることが分かるステッカーが貼ってあれば、その施設を狙おうと思わなくなるのではないか。将来そのようになればと期待しています」

 ところで、なぜ佐野社長自らが「不審者役」で動画に登場したのか

「自分が捕まえられることで、製品への気づきが生まれるんですよね。また、力の弱い女性社員が僕を捕まえることで、彼女たちにもアイデアが湧いて、意見を交わすことができるんです」

「社長へのうさばらし」などと面白がられ、反響があったことは予想外だったが、それにも意義を見いだしている。

「製品を知っていただくこともありがたいですが、それ以上に動画を見ることで普段忘れがちな防犯意識を高めてもらい、継続的な防犯訓練につなげてもらえたらと考えています」

(AERA dot.編集部・國府田英之)

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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