5月31日朝、北朝鮮から弾道ミサイルの可能性があるものが発射され、政府は沖縄県を対象にJアラートを発出。これを受けて一斉に報道された
5月31日朝、北朝鮮から弾道ミサイルの可能性があるものが発射され、政府は沖縄県を対象にJアラートを発出。これを受けて一斉に報道された

 ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮。先日も軍事偵察衛星を搭載したミサイルを発射した。日本でも沖縄県を対象にJアラートが発出され、不安が広がった。いま、なぜ北朝鮮は偵察衛星を開発しているのか。AERA 2023年6月26日号の記事を紹介する。

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 北朝鮮が5月31日、軍事偵察衛星を搭載したミサイルを発射した。偵察衛星の運用が始まれば、何が変わるのか。

 朝鮮中央通信によれば、朝鮮労働党中央軍事委員会の李炳哲(リビョンチョル)副委員長は発射2日前の5月29日、「衛星と新たな実験を予定している多様な偵察手段は、米国と追従武力の危険な軍事行動をリアルタイムで追跡、監視、判別して事前抑止および対処し、国家武力の軍事的準備態勢の強化で必須不可欠なものである」と強調した。

 北朝鮮の偵察衛星の性能はどの程度なのか。

 政府関係者らの証言によれば、プラネット・ラボやマクサーなどの米民間企業や日本政府が保有する衛星が撮影した画像の解像度は30~50センチ程度と言われる。米政府が保有する米キーホール軍事偵察衛星の解像度はさらに精密だ。米国のトランプ大統領(当時)が2019年8月、公式ツイッターに投稿した、イランの衛星打ち上げ用ロケット場の衛星画像は、市販のものよりも桁違いに優れていた。

 米偵察衛星は、核実験場に設置された観測ケーブル、弾道ミサイル発射の前に準備するコンクリート・パッドの設置状況などから、北朝鮮による軍事挑発の時期を探ってきた。カメラを斜めに向けることで、屋根の下の活動も監視していた。関係者の一人は米衛星の威力について「人相まではわからないが、車両のタイプや人の数、兵器の種類まで把握できる」と語る。

 北朝鮮がこれまでミサイルに搭載したカメラで撮影した写真の解像度は、米民間企業などに劣っている。米ミドルベリー国際大学モントレー校ジェームズ・マーティン不拡散研究センターのデビッド・シュマーラー上級研究員によれば、北朝鮮の偵察衛星の解像度は3~10メートル程度にとどまるとみられる。

 朝鮮半島近海や港湾にいる米韓両軍の艦船の数、韓国の飛行場にある航空機の数などは把握できる。22年2月、ウクライナ侵攻直前にロシア軍が国境沿いに集結したような、軍事的な緊張の変化は読み取れる。ただ、北朝鮮も地理画像サービス「グーグル・アース」を利用しているとみられる。すでに、米民間衛星の水準の情報を得ている北朝鮮が、画質が劣る自前の衛星を打ち上げても、安全保障で利益を得ることにはならない。

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