日本語は何でも英訳すればいいというものではない(写真/gettyimages)
日本語は何でも英訳すればいいというものではない(写真/gettyimages)

 外国人観光客の姿をよく見かけるようになりました。観光地の華やぎが戻ってきたようで、ちょっぴりほっとする今日この頃です。

 ただ気になるのが、外国人観光客向けの英語表記です。案内板やパンフレットを見ると、本当にこの訳し方でいいの? と首をかしげてしまうヘンテコ英語によくぶつかるのです。観光地では英語だけでなく中国語や韓国語など他の言語表記も増えましたし、外国人と見ればひとまず英語で話しかけてしまう問題もあるのですが(フランス人の知人が、『外国人全員が英語をしゃべると思うなよ!』といかにもフランス人な怒りをぶちまけていました)、ひとまずこの場で取り上げるのは英語だけにさせてください。

 たとえば「中央通り」という道路があるとしましょう。おそらくどの町にも一本はあるであろう目抜き通り。もしあなたが外国人観光客に英語で「Where are we?(ここはどこですか?)」と現在地を訊かれ、「ここは中央通りですよ」と答えるとします。「中央通り」は、一体英語でどう言えばいいでしょうか。

「そんなの簡単、central streetでしょ」

 と答える人は多いでしょう。私もつい最近までそう思っていました。

「英語なんてわからんから、チューオードーリって日本語でそのまま言うわい」

 という人もいるでしょう。私の親がそうです。

 私の地元にある「中央通り」は、案内板やパンフレットでは「Chuo Street」と表記されていました。私がそれを初めて目にしたのは学生の頃。そんなバカな、これを訳した人はcentralという英単語も知らないのだろうか、と憤ったのを覚えています。

 確かに日本には、日本語をそのままローマ字にした“英訳”が多々あります。「日本放送協会」の略称が、JBC(Japan Broadcasting Corporation)ではなくNHK(Nihon Housou Kyokai)であるように。そして、その傾向は観光地で顕著であるように感じます。仮に、江戸忍者村というテーマパークがあったとして、その英語名称が「Edo Ninja Mura」になっていることが多々あるのです。EdoとNinjaはまだしも、MuraはVillageに英訳しなきゃダメでしょ、いや、テーマパークは本物の「村」じゃないからViilageと直訳するのは誤解を招く、だからMuraのままにしちゃったの? それにしても不親切じゃない? という英語がたくさんあるのです。ちなみに実在の日光江戸村の英語表記は、「Edo Wonderland」。そこに原語の読み方である「Nikko Edomura」が併記されています。

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大井美紗子

大井美紗子

大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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