堤幸彦は、23年前、当時テレフォンアポインターのアルバイトをしていた、もちろん全くの無名の僕を、医者Aというほとんどエキストラに近い役の僕を、「俺は面白い人を撮りたい」と、常識では考えられないくらいフューチャーして撮った。

そのたったワンシーンを見た、故・小口健二は、「君は必ずどこに行っても売れる。ただウチなら少しだけ近道を照らしてあげられるよ」と僕に言い、自身が創設した事務所に引き抜いた。繰り返すが、たったワンシーンを見ただけで。

コントを銘打ってるのに客は一切笑わず、「つき合いで来てみたが金と時間を返せ」と殴り書きしたアンケートもあったほど悲惨な結果だった公演を見た舞台演出家の堤泰之は、「え? 二朗くんのホン、面白いよ」と、そのあとの「ちからわざ」の全公演の演出を担ってくれた。

河毛俊作は、超がつくほどの豪華俳優たちが揃ったドラマ「人間の証明」の打ち上げで、当時端役ばかりだった僕の耳元で「この作品の一番の収穫はお前だよ」と囁いた。

永森裕二は、「幼獣マメシバ」のお金を出してくれる製作委員会の面々を前に、「主演は佐藤二朗でいきます。以上」と、「誰だ、それ」と皆が呆気に取られてるうちに席を立ち、企画を実現させた。

福田雄一は、当時誰も考えなかった僕の部分に目をつけ、洪水のように作品をつくり続けた。

片山慎三は「まだ世間が知らない佐藤二朗をなんとしても見せたい」と、大事な大事な自分の商業監督デビューの作品で、僕にアテ書きし、主演に招き入れた。

「コメディなら金を出す」という声が相次ぐ中、ヨシヒコと仏とはまるで違う世界観で僕が監督する作品に、山田孝之は主演として賭けてくれた。

俺が「冒険」をしないでどうする。

こういった人たちのために、と言うのは口当たりが良すぎるかもしれない。だが、たくさんの「確信」を持ってくれたクリエイターたちに、俺自身が「まあ、なんとなく、大体このポジション」に甘んじていては、到底顔向けができない。

「場所取り」の「場所」なんて木っ端微塵にしてやる。

それが、多くの「確信」に報いる、唯一の恩返しだと思っている。

暮らしとモノ班 for promotion
スマホで調理する家電「ヘスタンキュー」と除菌・除臭・しわ取りできるスチームクローゼット「LG スタイラー」って何?