イスラム国の戦闘員(ユーチューブから)
イスラム国の戦闘員(ユーチューブから)

 理想を掲げながら、テロ集団に堕落した「イスラム国」。その恐ろしさを、現地で体感したジャーナリストがいる。

 中東での取材経験があるフォトジャーナリスト、八尋伸さんはイスラム国に身柄を売り渡される寸前のところで助かった経験を持つ。

 八尋さんは13年9月、シリア北部のアトメという町で別の武装勢力を取材した。その後、取材のコーディネートを依頼した地元有力者の携帯電話に突然、イスラム国の現地司令官から「来い」と連絡があった。案内された場所で車を降りると、ピックアップトラックの上で機関銃を構え、覆面をした複数の男たちの鋭い眼光にさらされた。

 部屋には司令官のほか、戦闘員と思われる屈強な男たちが6人。司令官が「Tell them(彼らに伝えろ)」と言うと、刃渡り20センチほどのナイフを懐に差した戦闘員が、八尋さんたちにシリア入国の目的を問いただした。

 尋問約1時間。八尋さんたちは「スパイではないかと疑われていた」。嫌疑は晴れたようで、八尋さんたちは司令官と握手をして別れた。ただ、ずっと押し黙っていた司令官は最後に、同席していた通訳にアラビア語で話しかけた。

「建物から出た後に通訳に聞くと、私たちを『2千ドルで売ってくれ』というやりとりだった。それを聞いて血の気が引いた。コーディネーターが地元の有力者だったので、要求をはねつけることができた」(八尋さん)

AERA 2015年2月9日号より抜粋