特定秘密保護法の成立、集団的自衛権の行使を容認する閣議決定、早ければ今秋とされる九州電力川内(せんだい)原発(鹿児島県)の再稼働。こうした安倍政権の動きが、母親たちの不安をかき立てている。程度の差こそあれ原発事故後、自宅でわが子を放射能から守ろうと必死に努めてきた。いっとき沈黙していたが、再び子どもの“危機”を察知し、母親たちが再結集している。

 都内在住で、小4と小1の子どもがいる保育士のCさん(40)は、集団的自衛権に反対する考えを、信頼する友人たちに伝えている。「この3年間、必死に守ってきた子を、国に取られたくない」という思いからだ。もし戦地に自衛隊が派遣されることになり、いつか徴兵制が現実になったら…。そうした不安が彼女を突き動かす。

 原発事故後、放射能対策で生活は一変した。高額になった食費を捻出するため、職場復帰。「自分があきらめたら終わり」と言い聞かせ、孤軍奮闘してきた。そこへ飛び込んできた集団的自衛権の閣議決定のニュース。「やっぱりな」と思った。検討中の海外移住は、今すぐにはできない。それならできることを、と原発事故後に加わったネットワークのママ友にしか話していなかった集団的自衛権の話題を、ほかの友人にも広げることにした。手始めに10年来の友人と食事をした際、思い切って話題を振ってみた。今後は保育士仲間を中心に、話せる人の輪を広げていくつもりだ。

 東京都板橋区に住むフリーの編集制作者、加藤真由さん(39)はいま、近所に住むママ友と、「憲法カフェ」の準備を進めている。集団的自衛権などに詳しい弁護士から話を聞く会合だ。

 加藤さんは、これまで社会運動とは縁がなく、自分から動くタイプではなかった。動かしたのは、原発事故後に周囲と原発について話すことができなかった、という後悔の念だ。震災直前に生まれた長女のことを思い、放射線量測定済みの宅配野菜を買うなど家の中でできる対策を続けてきた。ただ、夫の親類が原発関連企業で働いていることに気がねして、誰かと話し合うことはなかった。「反対デモには流されるように参加したくない」という思いもあった。

 だが、集団的自衛権に対する国の強硬なやり方を見て、将来に対する漠然とした不安を感じた。どんなに考えても不安の正体がはっきりしない。それなら専門家である弁護士を呼んで話を聞こうと思った。

AERA 2014年8月4日号より抜粋