……と、これが案外難しいことだというのは、私もよく分かります。私も文科省時代、毎朝、都心に向かう電車のホームに立ちながら、「もう全部放り出して、逆方向の(つまり田舎の方へ向かう)電車に乗ってしまいたい……」と思ったことが何度あったか……。

 しかし、これまでを振り返ってみれば、組織には“できない人”の存在も必要だったりします。私は30代の時に、50代の部下がいたんですが、その人がまったく仕事ができない人でね(笑)。仕事をしているつもりなんだろうけど、まるで仕事になっていない。だけど飲み会になると俄然存在感が発揮される“飲み会専門”みたいな人で、明るくて楽しいムードメーカーだった。彼のおかげで雰囲気のいい職場になっていたなと思うんです。

 日本型の組織は平等主義で、「できる社員」と「できない社員」で給与もあまり差をつけないのが問題だと言われたりするけれど、私はそれでいいと思う。「できる社員」には、給与よりも地位で遇するのが日本型組織なんだと思います。そして「できない社員」にもそれなりの仕事を与えることで組織全体がうまく回る。

 あなたが人並み以上に働いていることは、あなたの上司も分かっているはず。いずれ昇進の機会が来るでしょう。今はあまり根を詰めすぎず、適度にサボることをおすすめします。

週刊朝日  2019年6月7日号

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前川喜平

前川喜平

1955年、奈良県生まれ。東京大学法学部卒業後、79年、文部省(現・文部科学省)入省。文部大臣秘書官、初等中等教育局財務課長、官房長、初等中等教育局長、文部科学審議官を経て2016年、文部科学事務次官。17年、同省の天下り問題の責任をとって退官。現在は、自主夜間中学のスタッフとして活動する傍ら、執筆活動などを行う。

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