春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。JFN系FM全国ネット「サンデーフリッカーズ」毎週日曜朝6時~生放送。メインパーソナリティーで出演中です
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。JFN系FM全国ネット「サンデーフリッカーズ」毎週日曜朝6時~生放送。メインパーソナリティーで出演中です
春風亭一之輔は羽生結弦選手に自分を重ねていた? (※写真はイメージ)
春風亭一之輔は羽生結弦選手に自分を重ねていた? (※写真はイメージ)

 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「4年」。

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 平昌五輪が閉幕して1週間以上たちますが、『平尾昌晃』という字面を見てもいまだに『平昌五輪』と空目をしてしまいます。『カナダから~』ならぬ『韓国からの良い便り』が届きまくるせいで、私も何を言うにも語尾に「そだねー」をつけまくり、かみさんがイライラしていますそだねー。さぁ、ここらでイチゴでもつまもうかねー。もぐもぐ。

 2月12日。上野で私の後援会の新年会がありました。4年前のこの会の当日は記録的な大雪。晴れ着で長靴の女性会員さんが、上野の山を鬼の形相で雪中行軍する……というなかなかにカオスな状況でしたが、無事に今年は晴天。

「4年前、日本は大雪で、たしかそのときのソチ五輪は雪不足でしたねー」。お客様にそんな挨拶をしている私の左足の甲を、急な激痛が襲ったのです……。

 2月17日。この日は横須賀・汐入の劇場で私、春風亭一之輔の独演会。その日は自分でもナーバスになっているのがわかりました。12日から続く謎の激痛で歩くのもままならず、開演時間が迫っても椅子に座ったままの私。楽屋のテレビでは男子フィギュアスケート・フリーの生中継が流れています。すきま風さえも響く原因不明の痛みのために、身動きひとつ取れません。そのとき、私は羽生結弦選手に自分を重ねていました……。

 あ……「お前みたいな破戒僧ヅラの噺家とアタシのユヅを一緒にすんなや!(怒) このドテチンッ!!」と乙女たちのぶちギレた金切り声が、今遠くで聴こえた気がします。

 いやいや……ちょっと待ってもらいたい、レディたち。基本的に『落語家=フィギュアスケーター』ですよ。大勢の観衆が注視し続けるなか、プレーヤーはたった一人でパフォーマンスをするのだから……。ほら、ほぼほぼ一緒です。

 そして「羽生選手・金メダル」。その日、私が無事に高座をつとめることができたのは、リンクで舞う彼を観ていたおかげでしょう。お互い痛みに耐えて、持てる限りの力をぶつけることができたのです。『ユヅは金メダル、イチ(一之輔)は笑い』を勝ち取ったのです。平昌と汐入がつながった瞬間です。

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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