スマープは認知行動療法を取り入れた外来プログラムで、週に1回精神科医師や臨床心理士などのスタッフと患者10人程度が集まり、ワークブックを使用しながら設問に答えたり、話し合ったりしながら進めていく。1回90分程度で半年(24週)かけて1クールが終了。「どんなときに薬物が欲しくなるのか」「欲しくなる状況を避けられないときはどう気持ちを切り替えるのか」といったことを学ぶ。

「スマープで最も大切なのは薬物を再使用しないことよりも、治療を継続することです。なぜなら薬物依存は、回復はしても完治はしない慢性疾患だからです。実際に治療を中断した人よりも、継続している人のほうが断薬率が高い。たとえ断薬できなくても、治療を継続しているほうが逮捕など覚せい剤による弊害を減らせるのです」(同)

 松本医師がスマープを立ち上げた神奈川県立精神医療センターせりがや病院(現・神奈川県立精神医療センター)では従来、覚せい剤依存症患者の約7割が初診から3カ月以内で治療をやめていた。

 そこで、スマープでは中断を避けるため、スタッフは歓迎する態度で患者に接し、無断欠席があれば連絡して次回の参加を呼びかける。毎回尿検査をするが、陽性でも通報したり自首をすすめたりせず、参加したことをほめ、共に対策を考える(覚せい剤使用について医師に通報義務はない)。

 斉藤さんはスマープに参加するにあたり休職し、徐々に覚せい剤の使用頻度が減った。なにより覚せい剤を使っても嘘をつかなくていい場があることに安心できた。参加者の中に長期間断薬している先輩がいることも励みになった。

 また、参加者に誘われて、自助グループにも参加するようになった。薬物依存から回復した人たちが、薬物依存の人を支援するために活動しているグループだ。

 斉藤さんはスマープ終了後に職場に復帰し、自助グループに参加するほか、2カ月に1回は外来を受診。約2年間断薬している。

 スマープは10年以降、厚生労働科学研究班のプロジェクトとして効果が検証されている。その結果、初診後3カ月時点における治療継続率はスマープに参加した人で約92%、参加しなかった人は約57%だった。さらに自助グループなどの社会資源の利用率を高めることも明らかになった。

「スマープ参加中は薬物の再使用は減りますが、終了すると再び使用してしまう人もいます。それを防ぐためにも自助グループや民間リハビリ施設などの社会資源につなげることが重要なのです」(同)

 厚労省は全国の精神保健福祉センターでもスマープを導入することを決定。医療機関でも現在21カ所で実施されている。

週刊朝日  2016年6月3日号より抜粋