狭山事件は、「冤罪(えんざい)」の問題であり、同時に「部落差別」の問題である。石川一雄さんの無罪を訴える運動は、部落解放同盟が長く支援してきた。映画『SAYAMA』の呼びかけ人の一人でもある、部落解放同盟中央本部の組坂繁之委員長は、現代の日本の差別構造は政府の手によるものだと批判する。

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 私は解放運動に入るとき、井上光晴の『地の群れ』を読んで感銘を受けました。被爆者と被差別部落と在日朝鮮人集落という三者が、お互いにいがみ合い、敵視する話です。井上光晴が言いたかったのは、差別から逃げるなと、差別と闘わないと弱い者同士がいがみ合うことになるということでしょう。

――それはまさしく、今の日本の状況ですね。

 そういう社会の構造を変えていかないといかんですね。いま、政府が進めるのは、差別分裂政策です。フリーターや非正規労働者の青年たちが、安定就労者をねたむように仕向ける。さらに在日外国人などへの差別をあおる。今の社会は江戸時代と似ています。弱い者同士が互いにいがみ合い、互いに監視し、連帯すべき人たちが分断されている。

――政府に不満が向かないように、国民に差別構造がつくられ、弱い者がさらに弱い者をいじめると。

 そうです。そういう人民相克の仕組みを、国がつくっているように思います。

 とくに特定秘密保護法では、公務員の「適性」を評価するために身上調査をすることになっています。国籍や宗教や趣味だとか、交友関係だとか酒癖がどうだとか、適性の条件があるという。伴侶やその家族まで全部調べて、人を排除する。この法律は単に知る権利だけでなく、政府が人間を分類する問題があるんです。非常に恐ろしい。身元調査を国が公然とするわけですから。政府によって国民が分断されていく。

――国の身元調査が公然とされると、世の中の人がそれを当たり前と思い始める怖さがあります。

 そのとおりです。そこに部落差別が出てくるし、障害者に対する差別も出てくるでしょう。あるジャーナリストによると、「適性」の条件に、障害のある家族がいるかいないかまでいくのではないかという。こうすると、障害者を排除したナチス・ドイツと同じです。ナチスの優生政策のようになってくる。

週刊朝日  2013年12月27日号