岩井:あれは、秋篠宮流の深謀遠慮でしょう。

 つまり、早々と「前例踏襲」の方針を固めていた官邸に対し、山本長官がのっぴきならない立場に立たされないよう、あえて「長官にスルーされた」と発信し、山本長官が「申し訳なかった」と応じ、官邸と皇室との「平行線」を印象づけたのだと思います。

天皇誕生日涙の会見で皇太子妃に触れなかった理由/明確化したい雅子さまの皇室行事参加ルール

岩井:涙もろくなられた。沖縄の犠牲に触れたあたりから感極まられた。沖縄については、退位後も心を寄せるとの気持ちまで述べられている。一生懸命やってこられたのだと感じました。

 ぎょっとしたのは、30年を振り返る中で、「平成が戦争のない時代として終わろうとしていることに、心から安堵しています」という一語が出てきたこと。

 近現代4代の天皇のうち、在位中に戦争がないのは平成が初めてですが、「安堵」と表現したのが、すごいなと思いました。

保阪:生前譲位だからこそ、こうしたことが言えたわけです。明治、大正、昭和の天皇が「生前譲位」をしていたら、どう言ったのだろうかと興味がありますね。

 気になったのは、天皇は「安堵」の直前に、「先の大戦で多くの人命が失われ、また、我が国の戦後の平和と繁栄が、このような多くの犠牲と国民のたゆみない努力によって築かれたものであることを忘れず、戦後生まれの人々にもこのことを正しく伝えていくことが大切」と話した部分です。

 つまり、戦争と犠牲、そして沖縄を忘れず、「正しい歴史」を継いで、若い人に理解してほしいというメッセージです。一般的に「正しい」という主観的な表現がいいとは思わない。しかし、この会見には自分でつくってきた天皇像への自負が込められており、歴史的な透視力のあるプロパガンダだと理解できました。

 天皇陛下は、誕生日のメッセージの終わりに、新しい皇室について、

「天皇となる皇太子とそれを支える秋篠宮は共に多くの経験を積み重ねてきており、皇室の伝統を引き継ぎながら、日々変わりゆく社会に応じつつ道を歩んでいくことと思います」

 と皇太子さまと秋篠宮さまを出す一方で、皇太子妃である雅子さまについては、触れていませんでしたね。

岩井:伴侶の皇后について大変な支えであったと万感こもる感謝のことばを出しているのに。

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