ジャーナリストの伊藤詩織さん、元自衛官の五ノ井里奈さんら自身の被害を実名で告発する人も出てきた(撮影/写真映像部・松永卓也)
ジャーナリストの伊藤詩織さん、元自衛官の五ノ井里奈さんら自身の被害を実名で告発する人も出てきた(撮影/写真映像部・松永卓也)

 セクハラが社会問題化して久しい。だが、ハラスメントも性被害も依然として後を絶たない。なぜ、セクハラは起きるのか、どうしてなくならないのか。改めて考えた。AERA 2022年11月21日号の記事を紹介する。

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 1989年、「セクシャル・ハラスメント」が新語・流行語大賞に選ばれた。男女雇用機会均等法が施行されてから3年。働く女性が増え、あちこちの職場でセクハラが表面化していた。それから四半世紀以上。セクハラや性暴力は依然あちこちにはびこっている。

 東京大学大学院の田中東子教授(メディア文化論)は、

「女性を軽く扱う、つまり小馬鹿にする文化と価値観が固定化していることが原因です」

 と指摘。それは、家事・育児を女性ばかりが担っていることはもちろん、日頃のちょっとした瞬間にもあふれているという。

 例えば、頼まれて社内のイベントに登壇したら「売り込んだの?」。業務上の緊急案件があり、役員に直接連絡を取ったら「あいつは役員と電話している」。長年希望していた部署異動が叶ったら「どうして彼女だけが」。いずれも、女性に向けられがちな発言だ。

「実力や事実関係には目が向けられていません。それらの言動の延長線上にあるのがセクハラであり性加害。特に女性が3割に満たない職場では被害が起きやすい」(田中教授)

 女性を軽んじる雰囲気は、メディアや広告によってもまき散らされ、性被害を生みやすい雰囲気をつくり出している。

■何もできず悔いる

 宮城県の会社員男性(40)は10年ほど前、取引先の幹部数人との会食に上司と女性の先輩社員とともに参加した。会食の席上、女性は先輩社員のみ。和やかに進んでいた食事の途中、上機嫌の上司がこう言ったという。

「今日は、彼女に何をしてもいい日ですよ」

 取引先の男性幹部は、にやにやしながら女性社員のブラウスの中に手を入れ、胸を直接触ったという。大きな笑いが起きた。作り笑いのような表情を浮かべていた女性は、その数日後、何も言わずに退職届を出し、連絡が取れなくなった。突然のことに何も知らない他の同僚たちは驚き、ザワついていた。男性は、

「あの場にいながら、何もできなかったことを悔いています。大事な取引先だったので、それくらい当然だとすら思っていた」

 と振り返る。職場でのハラスメントに詳しい圷由美子弁護士は、

「加害者も社会も、被害者のダメージの深刻さを十分理解していない。被害者の中には、職場に行くことも、電車に乗ることもできなくなり、就労はおろか日常生活そのものが破壊される方が少なくない」

 さらには、声をあげると「あの子に問題がある」と被害者を問題社員扱いし、攻撃する風潮がいまだ解消されていないという。ジャーナリストの伊藤詩織さんや元自衛官の五ノ井里奈さんが激しい誹謗中傷を受けた構造と同じものだ。

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古田真梨子

古田真梨子

AERA記者。朝日新聞社入社後、福島→横浜→東京社会部→週刊朝日編集部を経て現職。 途中、休職して南インド・ベンガル―ルに渡り、家族とともに3年半を過ごしました。 京都出身。中高保健体育教員免許。2児の子育て中。

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