性的虐待の罪で起訴されたアンドルー王子。エリザベス女王から「殿下」の敬称を?奪され、さまざまな名誉職も失った(写真:gettyimages)
性的虐待の罪で起訴されたアンドルー王子。エリザベス女王から「殿下」の敬称を?奪され、さまざまな名誉職も失った(写真:gettyimages)
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 エリザベス英女王が今年、即位70周年を迎える。英国王室史上初の慶事に水を差すトラブルが相次いでいる。次男のアンドルー王子の性的虐待疑惑もその一つだ。AERA 2022年2月14日号から。

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 エリザベス女王(95)は1月13日、次男アンドルー王子(61)の敬称であるHRH(His Royal Highness、殿下)を事実上剥奪(はくだつ)し、公的な使用を禁じた。というのも、王子は米国人のヴァージニア・ジュフリーさん(38)から、彼女が17歳の時に3度にわたって性的関係を強制されたと訴えられているのだ。

 王子と親交があった米国の実業家、ジェフリー・エプスタイン元被告(享年66)は、未成年の女性たちの性的虐待の罪で米国で起訴され、裁判開始前に勾留中の施設で自殺したとされる。彼の元恋人ギレーヌ・マクスウェル被告(60)は未成年女性を元被告に仲介した罪などで、有罪判決を受けた。

 王子側は、2009年にジュフリーさんがエプスタイン元被告から和解金約5500万円を受け取り、関係者を訴えないことに合意したとして、訴訟は成立しないと主張した。だが、判事は「関係者」が誰を意味するか、現時点では決められないとして、訴訟の継続を決めた。また王子側は、ジュフリーさんが生活に困窮した女性にエプスタイン元被告を紹介するなど、彼の手先だったと訴えた。ただ、裁判所の決断は覆せなかった。

■女王の迅速な決断に涙

 王子側はさらに、性的虐待によって精神的苦痛を受けたとするジュフリーさんの記憶に誤りがあるとして、彼女が通った精神科医の証言を要求。カウンセリングの際のメモや診療情報の開示を求めた。対するジュフリーさんは、被害者を責める「ヴィクティム・ブレーミング」に当たると告発。「傲慢(ごうまん)な王子をデストロイ(破壊)する」「ロイヤルも大統領も、法律よりも上の存在ではない」と繰り返す。

 こうした状況に動いたのが、エリザベス女王だった。

 女王の決断は迅速で迷いがなく、軍関係の名誉称号もすべて女王に返上させた。王子は英国の軍に22年ほど所属。フォークランド紛争ではヘリコプター操縦士として活躍した。それだけに王子は、女王から言い渡されたときは涙を浮かべたそうだ。

 それにとどまらず、王子は名門ゴルフクラブや慈善団体など100を超す組織のパトロンの役職、大学の名誉職も失った。

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多賀幹子

多賀幹子

お茶の水女子大学文教育学部卒業。東京都生まれ。企業広報誌の編集長を経てジャーナリストに。女性、教育、王室などをテーマに取材。執筆活動のほか、テレビ出演、講演活動などを行う。著書に『英国女王が伝授する70歳からの品格』『親たちの暴走』など

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