レバノンで会見した日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告(写真/朝日新聞社)
レバノンで会見した日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告(写真/朝日新聞社)

 保釈中にレバノンへ逃亡した日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告が8日、現地で記者会見を開いた。自らを正当化する一方、逮捕の背後にいたとされる日本政府関係者の実名など具体的な事実は明かさなかった。これは口止めされていたためだという。

【写真】ゴーン被告が勾留されていた場所

 レバノンの首都、ベイルートで午後3時(日本時間午後10時)から開かれた記者会見では、ゴーン氏の口から、日本からの出国方法や、関与があったとされる政府関係者の名前が出るのではないかと思われていた。

 だが、2時間半に及んだ会見では触れずじまい。冒頭で「脱出方法についてはお話しない」と述べ、事件に関しては「日本政府関係者も関わった陰謀だ」としながら、実名の公表は「レバノン政府に迷惑がかかるから」として言及を避けた。

 レバノン政府に近い人物は、会見当日にレバノン政府からゴーン氏側に詳細を話さないよう約束させる圧力があったと話す。

「会見で日産のことを話すのは構わないが、日本からの出国方法や政府関係者の実名などについては一切触れるなとの要請です。もし、話すようら会見自体を開かせないとの強い求めでした。レバノンは日本と良好な関係を望んでおり、ゴーン氏が会見で世界に向けて日本のマイナスイメージを植え付けることを防ぐのが狙いでした」

 会見の前日となる7日、大久保武・駐レバノン日本大使はレバノンのアウン大統領とベイルートで会談して事実関係究明に向けた協力を要請。このときアウン大統領は、政府がゴーン氏の日本出国に関与していないとしたうえで、全面的な協力を約束していている。

 レバノンとしては、日本とレバノンの間に犯罪人引き渡し条約が結ばれていない以上、レバノン国籍を持つゴーン氏の日本への引き渡しはできないものの、両国の関係悪化を恐れて日本政府に配慮した形だ。

 ゴーン氏が日本を出国したために会社法違反(特別背任)の罪などで起訴された公判の見通しは立っていないが、レバノン側はゴーン氏の裁判をレバノン国内でやる用意もあるという。

「ゴーン氏が日本を出国した理由の一つは、早期に望んだ公判がなかなか始まらない現状に業を煮やしたから。レバノン側は現在、舞台を日本からレバノンへ移して早期の裁判を始める用意があると話しています」(前出のレバノン政府に近い人物)

 だが、これを実現するには両国政府間の合意などハードルは高い。

(ジャーナリスト・桐島瞬)

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