アメリカの絵本の1ページ。将来の職業をテーマにした本で、教師・医師・シェフは男の子が、パイロット・大工・科学者は女の子がなるよう描写されています(写真/本人提供)
アメリカの絵本の1ページ。将来の職業をテーマにした本で、教師・医師・シェフは男の子が、パイロット・大工・科学者は女の子がなるよう描写されています(写真/本人提供)

 先日、日本の教育番組を鑑賞していたところ、んんん?!と思わず二度見してしまう描写がありました。

 おにいさん2人、おねえさん2人が将来の夢について語る歌で、おにいさんたちはパイロットとサッカー選手、おねえさんたちはケーキ屋さんと画家に憧れるという設定だったのです。
 
 それのどこが変なの?と首をかしげる方もいるかもしれません。でも、アメリカの教育番組だったらこういう描写はしないだろうな、と思うのです。少なくともおにいさんのどちらかがケーキ屋さんか画家、おねえさんのどちらかがパイロットかサッカー選手、という演出がされるはずです。

 アメリカのメディアは、ジェンダーフリー教育に熱心です。ジェンダーフリーとは、男らしさ・女らしさというステレオタイプにとらわれず、一人一人が自分の望む選択をできるようにしようという考え方。アメリカの子ども向けテレビ番組や映画、絵本には、切れ者の女性科学者やおだやかな専業主夫、パンクロック好きな女の子や泣き虫男の子といった役柄がたくさん出てきて、従来の男らしさ・女らしさとは真逆を行く描写が意図的にされています。

 先日、FIFA女子ワールドカップでアメリカが2連覇を果たしましたね。アメリカの女子サッカーチームが世界でもダントツに強い理由は、1972年に制定された性差別を禁止する連邦法、タイトル・ナイン(Title IX)が一因にあるという分析があります。それまではアメリカにも「女がスポーツなんてやるもんじゃない」という偏見があったのですが、タイトル・ナイン制定によって女性へスポーツの門戸が開かれ、学校や地域で女子向けのサッカー教室が開かれるようになりました。男女間の賃金格差問題があり、まだ男女平等とはいえない状況ですが、それでも女子サッカー人口が増えて現状の強さにつながったというのです。

 またわたしのアメリカ人義母は学生時代に医師を志していたのですが、「女が医者になんかなるもんじゃない」と医師の父親に反対され、結局4年制大学の看護科へ行って看護師になりました。つい30年前の話です。それから状況は変わり、現在アメリカにおける女性医師の比率は36.1%(2017年、OECD調べ)。他のOECD加盟国と比べると決して高くはありませんが徐々に増えており、この20年間で女性医師の数は約2倍に増えています。

 このように、つい半世紀ほど前はアメリカにも女性への偏見・差別がはびこっていたのです。でも、そんな時代への反省からか、強迫観念的ともいえるほどジェンダーフリー教育が徹底され、今こうして目に見える成果が出ています。
 

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大井美紗子

大井美紗子

大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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日本の女性の地位は?